「アユミ、おつかれ。」

私は少し疲れた顔のアユミに声をかけた。

アユミは力なく右手を挙げて、私に近寄ってきた。

「タツヤ・・・何かわかった?」

小さな声でアユミに聞く。

なんだか胸がドキドキしていた。

「うん。わかったんだけど。ちょっと重たい話でさ。」

アユミの表情から、いい話ではないことは察していたけど、

やはりショックだった。


「タツヤ、今日の午前の便で帰国したみたい。例の問題については、会社全体で動いてなんとかなったみたいなんだけど。」

「うん。それだけでもよかったね。」

別に仕事なんかどうでもよかった。

タツヤは?

「ユウタの話だと、タツヤの上司は左遷。社員一人しかない会社に出向だって。で、タツヤは・・・。」

「タツヤは?」

アユミはちらっと私の顔を心配そうに見た。

「・・・辞職願い出したって。」



・・・え?



「ユウタが言うには、上司がそれだけ重い異動になった状況で、自分が会社に居続けることはできないって判断したらしいの。当然、タツヤも左遷される予定ではあったんだけど、それを断って退職を選んだみたい。」

そんな。

こんな不景気に会社を辞める?

これからどうするの?タツヤ。

自分のこと以上に不安な気持ちにおそわれた。

体が小刻みに震えた。

「ハルナ、大丈夫?唇が青いよ。」

アユミはそう言うと、私をぎゅっと抱きしめた。

「たぶん、仕事の引き継ぎとかで、明日、明後日くらいまでは会社に残ってるはずだから、タツヤと話しなよ。」

アユミは私の髪を優しくなでた。

私は何も言わず、首を縦に振った。

「今、タツヤは?」

「お得意先に挨拶に回ってるみたい。なにせ、急なことだから。営業ってきつい仕事だよね。こんな状況でも、最後までいい顔で回らないといけないなんて。」

今日は会えない・・・か。