少しだけ親密な空気を漂わせながら、たわいもない話をしたり、ベランダからの景色を楽しんだり、気がつくと19時になっていた。

「お腹すいた?」

「そういえば、そうだね。」

私は笑った。

「何か作ろっか?」

自分でも驚くくらいスムーズに口から出てきた。

ノボルと付き合ってた時は、そんなこと思いもしなかったし、言おうともしなかったのに。

その一言に、ナオは嬉しそうに笑った。

「ハルの手料理食べてみたいけど、もうこんな時間だから、次回お願いしようかな。今からじゃ大変でしょ?冷蔵庫に何もないし。」

ナオの言葉に、正直安堵している自分がいた。

そうなんだよね。

30歳にもなって、ほとんど料理の経験なし。

作れるのはカレーライスとお好み焼きくらい。

よくもまぁ、そんなんで「作ろうか」なんて言ったもんだわ。

「近くに雰囲気のいいレストランがあるんだ。行ってみる?」

「うん、行く行く。」

即答してる自分がこれまた情けない。

でも、そんな私をナオは優しい目でみつめていた。


レストランは住宅街のど真ん中にひっそりとたたずんでいた。

洋館のようなたたずまい。

でも、きっとここも絶対高いよな・・・

扉を開けると、ドミグラスソースの濃厚な香りが鼻をかすめた。