若葉 妃奈
《わかば ひな》
大手企業のOL。童顔が
悩みの23歳。職場の先輩、
聡志と付き合っているが、
浮気されているらしい。素直に甘えられない性格。
五十嵐 隼人
《いがらし はやと》
妃奈の前に現れた謎の男。
正体は関東最大の組、
五十嵐組の跡取り息子だった。
若葉 涼子(25)
《わかば りょうこ》
妃奈の姉。いつも妃奈を
応援してくれる頼れる存在。
怒らせると怖い。
藍沢 聡志(27)
《あいざわ さとし》
妃奈の上司で恋人。真面目な
好青年だったが、毒女の手に
かかり妃奈との仲を引き裂か
れた。
『は・・・?浮気された?』
それは一本の電話から始まった。
「・・・聡志が歩いてたの。社長の娘さんと、楽しそうに」
週末の賑わった街、仲良く寄り添う恋人達は少なくはない。数時間前まで、自分が歩いているはずだった恋人の隣には、見知った女がぴったりと寄り添っていた。
『聡志君が?見間違いじゃないの?あんなに誠実な人が浮気するなんて』
―見間違いなら良かったのに―
ぎゅっと携帯を握る手に力が入った。
『―・・・な?ひな!聞こえてる?』
「・・・・え?うん、聞こえてる。ごめんね、お姉ちゃん」
『なに?急に』
三つ歳の離れている姉には、いつもお世話になっている。親身に相談に乗ってくれ、今も自分の恋人が浮気しているかも知れないと、相談している最中だ。
「ううん。ありがとね。話したらすっきりした。そうだよね、強引に付き合わされたのかも」
妃奈はテーブルの上にある写真を見た。そこには優しく微笑む聡志がいた。
「この事は忘れるね。きっとあの人なら、何があったか話してくれるから」
『・・・妃奈。今度飲みに行こうか。久しぶりに会いたいし』
「行く!電話じゃ話せ無いこともあるし」
『よし。また日にちとか決まったら連絡するから。あんまり考え込んじゃだめよ!』
「うん。わかった。それじゃあ、楽しみにしてるね」
姉からわかった、と返事がきて電話が切れた。
部屋は静まり返り、ひっそりとしている。
(今頃二人で一緒に居るはずなのに・・・)
これ以上考えても仕方ないとため息をつき、早めにベッドに潜り込んだ。
(おやすみ、聡志)
疲れていたのか、いつの間にか眠りにおちてしまった。
翌日、出勤してすぐに分かった。聡志は私を捨てた。新しい彼女ができていた。
社長の娘、九条摩希(くじょう まき)。今年、企画部に配属されたばかりの新入社員だ。運悪く聡志が教育係になってしまった。
肩まであるふんわりボブ。男
うけする仕草はすべて心得てい る。素直になれない自分より、遥かに可愛い彼女が良いはずだ。
何も考えず、デスクに向かう。
―もう終わったんだ。お幸せに―
相変わらず可愛くない女だと
自分で思い、資料を広げた。
姉から連絡があったのは三日後だった。
[土曜日の6時に駅前の居酒屋
集合ね。仕事だと思うけど間に合うでしょう?]
駅前の?いつもの駅ビルじゃないの?思いながら返事をした。
[わかった。少し遅れそうだけど、先に入ってて]
その日は・・・聡志と話すつもりだから。思いっきり振られるんだけどね。
土曜日、誰も居ない会議室。私は彼にまっすぐ見つめられていた。
「これから用があるから手短にして」
「・・・俺は別れない。それだけだから」
―は?何いってるの?あの子がいるじゃない。堂々と二股宣言?それだけって―
「私は好きじゃない。もう終わりにしましょう。あ〜もう五時半じゃない。お疲れ様でした、藍沢主任」
妃奈は一礼をしてドアノブに手をかけたが、いきなり肩を掴まれれ、扉に押し付けられた。
「・・・っつ!何するの」
振りほどこうとしてもびくともしない。むしろ強く掴まれる。
彼の表情は見えない。しかし歯をきつく食いしばっている。
「離してくださ・・っん!!」
キスをされた。いつものキスじゃない、荒々しい強引なモノ。
「やめて!!」
思いきり彼を突き飛ばし部屋を出た。
―信じられないっ自分で浮気しておいて別れる気はないって―
時計を見ると6時を回っていた。急いでデスクに戻り、荷物を詰め込み、待ち合わせ場所に向かった。
目的地に着いたのは、30分後だった。遅れるとは連絡しておいたが、やはり心配だったのか姉が店の前で待っていてくれた。
「お疲れ様。大丈夫?顔色悪いわよ?」
「え?あ、うん。大丈夫、ちょっとお化粧直してくるね」
妃奈は店の中に入ろうとしたが、姉に止められた。
「妃奈、ちょっと待って。あのね、今日は亮治も一緒なの。人数が多い方が盛り上がるでしょ?」
「うん。今日は飲みたい気分なの。さ、行こ」
姉の彼氏、篠野亮治(しのやりょうじ)とは仲良くやっている。よく三人で飲みに行ったり、ショッピングしたりしている。早く結婚すれば良いのに、と言ってはいるが本人達は今の関係が一番良い、と笑って話している。
「もう亮治は来てるから、先にお化粧直してくる?」
「ううん、亮兄来てるなら後でいいよ」
妃奈は店に入り、亮治の居る席を探していると、店の奥から聞き覚えのある声が聞こえた。