『は・・・?浮気された?』
それは一本の電話から始まった。
「・・・聡志が歩いてたの。社長の娘さんと、楽しそうに」
週末の賑わった街、仲良く寄り添う恋人達は少なくはない。数時間前まで、自分が歩いているはずだった恋人の隣には、見知った女がぴったりと寄り添っていた。
『聡志君が?見間違いじゃないの?あんなに誠実な人が浮気するなんて』
―見間違いなら良かったのに―
ぎゅっと携帯を握る手に力が入った。
『―・・・な?ひな!聞こえてる?』
「・・・・え?うん、聞こえてる。ごめんね、お姉ちゃん」
『なに?急に』
三つ歳の離れている姉には、いつもお世話になっている。親身に相談に乗ってくれ、今も自分の恋人が浮気しているかも知れないと、相談している最中だ。
「ううん。ありがとね。話したらすっきりした。そうだよね、強引に付き合わされたのかも」
妃奈はテーブルの上にある写真を見た。そこには優しく微笑む聡志がいた。
「この事は忘れるね。きっとあの人なら、何があったか話してくれるから」
『・・・妃奈。今度飲みに行こうか。久しぶりに会いたいし』
「行く!電話じゃ話せ無いこともあるし」
『よし。また日にちとか決まったら連絡するから。あんまり考え込んじゃだめよ!』
「うん。わかった。それじゃあ、楽しみにしてるね」
姉からわかった、と返事がきて電話が切れた。