「…やっぱ、お前も移動か?」
「…お前もか…」
「まぁな。」
何事も無かったかのように平然と話しかけてくる海琉。
海琉は屋敷を取り囲む大きな塀に背中をあずけたまま話す。
「お嬢様って…厄介だな…」
「…あぁ。」
それが今日分かったところだ。
春の、まだ肌寒い風が2人を包んだ。
「…また、会えるといいな。」
海琉はそれだけ言うと、体重を塀から自分の足にかけ、俺に背中を向けて歩き出した。
「あぁ…。」
海琉に届くか届かないかくらいの声で言った俺。
今思えば、大人びた海琉を見たのは…これが最後だった。
――1年後………
「次の勤め先が決まった。」
俺の3人目にあたるお嬢様と出会う……