「移動…?」

「はい。
お嬢様とお顔をあわせるのは、今日で最後です。」

「最後…?」

「はい。
もうお会いすることはできないでしょうが、ずっとお嬢様のことを応援しています。だから、頑張ってくださいね。」

「……」




黙り込むお嬢様。


静まり返る車内。



俺は少しお嬢様から顔を背けた。





「…寂しいわ。
もう高野さんに会えないのね…。」

「そうなりますね。」




素直に「寂しい」とか言われたのはコレが初めてだった。




「私…何があっても挫けないわ。
だから高野さん、応援していてね?」

「さっきも言ったように…
私はお嬢様をずっと応援しますよ。」

「ありがとう♪」

「執事として、当然ですから。」




この、俺の最後の言葉にお嬢様は少しだけ悲しそうな顔をした。


俺には、別れを惜しんでいるという受け取り方しかできなかった。



でも、本当の意味は違ったんだ。





「私ね?」

「はい。」




「本当は、高野さんの“お嬢様”で居たくなかったの…
高野さんに、“執事”だなんて、言って欲しくなかった…」