無我夢中で自転車をこいでたら、あっという間に零さんの家。

インターホンを鳴らすとすぐに零さんはひょっこりドアの隙間から顔を出した。

「おー、唯ちゃんじゃないかー」

あたしは袋からあずきバー二つ取り出し、がんばって笑ってみる。

「零さん、忘れてたの。ほら!食後のデザート!」

夏の夜風が二人の沈黙と重なって駆け巡る。

「にゃ、にゃはははーっ!わ、忘れてたのだっ!わたしとしたことがっ!」

縁側で並んで食べるあずきバー。

「おいしいね、零さん。やっぱりアイスはあずきバーだよね」

なんだか恥ずかしくて零さんの顔を見ることができない。気が付けば、居間のテレビから漏れるお笑い番組の音がよく聞こえる。

あれ?

零さん、どうして黙ってるの?

………。

………。

………。

うー!

あたし!

も、もうだめ!

耐えられない!

「れっ!れいさんっ!」

「ふにゃふにゃ」

寝てる…。

「ふっ!ふふっ!」

後から後からわいてくる笑いを堪えながら、零さんの手からあずきバーの木の棒をそっと取る。

「ふにゃふにゃ唯ちゃん…」

………え?

「はにゃひにゃへにゃ…」

「うふふっ。今日はありがとう。よくがんばりましたっ!」

空にぽつんと浮かんだお月様。

お月様はあたしと零さんを見て笑ってるかな。

でも。

それでもいいよ、お月様。

無防備な零さんの手の平に人差し指で書いた2文字。

書き終わらないうちに。

零さんが寝ぼけてあたしの人差し指を掴んじゃったから。

あたしはこっそりそれを恋人繋ぎに変えてみる。

「あったかいな。零さんの手」

というか汗ばんでる…。

ふいに夏の匂いいっぱいの夜風がさらさらさらりと吹いた、その刹那。

大好きだよ、と呟いた。