幼い頃、母さんが語った物語。

そこは、静かな夜の町でした。
ある赤い三角屋根の家に住む男の子は眠れなくて、窓からぼんやりと外を眺めていました。
「眠いのに、眠れない……。どうして夜は怖いのかな。どうして夜は不安なのかな。」
男の子が呟くと星がきらりと降ってきました。
星は男の子の手の中で輝き、優しく歌いました。
「私が降る夜、星降る夜は、詠い人に会いなさい。人の心と人の願いを詠ってくれる、詠い人。貴方の夜に安らぎを、貴方の心に喜びを、詠い人は歌うから」
星は歌い終わるとふわりと浮かんで消えました。
男の子は夜空に向かって歌いました。
「詠い人、いるならどうか詠ってください。僕の心に喜びを、僕の眠りに安らぎを」
すると、男の子の目の前に、ふわりと膨らむ黒い外套を着た詠い人が現れました。
「貴方の願いを詠います。貴方の心に喜びを、貴方の眠りに安らぎを。星降る夜に私は詠う。星降る夜に私は願う」
そして詠い人は眠りにつこうとする男の子に歌を詠いました。
その声は優しく、その旋律は繊細で、男の子の心を癒しました。
詠い人は人のために星降る夜に現れて、今も誰かのために詠っているのかもしれません。