「俺も一つ言っていい?」


多岐君が優しい声で言ってきた。

あたしはこくりとうなづく。


「俺は、中学まですっごい悪でさ。未来が想像できないこといっぱいやってきた…」

「……」

「親はただ金をもらうためだけの存在で、ほとんど話してなかった。だから『愛』なんて全然知らないし、もらったこともあげたこともなかった。ある人に出会うまでは…」

「ある人…?」

「その人に出会ったのは…まぁ見ただけなんだけど、桜の木の下にいてさ、桜の花が舞ってる中で一人悲しそうに空を見上げてた…」


多岐君は話すたび優しい顔になっていく。

あたしは誰だか分からなかった。