自分だけが不幸に見えてきた。

そんな考えから、突然学校に行きたくなくなった。



小学校から中学校に上がると、近くの小学校の4校が混ざり、クラスの4分の1しか知っている顔がいない。


もともと引っ込み思案だった自分は、友達もあまりいなくて、クラスメイトとまったく打ち解けられなかった。


部活動、といっても、一緒に入ってくれる人がいなく、どうせ入っても楽しくないんだと思って、帰宅部となった。

そのままずるずると時が経ち、1学期の中旬となったころだった。クラスの中心になるような人が現れてきて、休み時間などにはその人の周りに人が集まっていた。


自分はたまたま席が教室の端っこだったので、机にうつぶせにして寝た振りをして、休み時間を過ごしていた。

その、固まっていたグループの中心の松原という男子が、こう言っていたのを聞き逃さなかった。
松原「うちのクラスの上条裕也ってやつさー、結構地味じゃね?」


そう、自分の名前が上がっていたのだ。




正直、放っておいて欲しかったが、自分のような存在というのは最高の話題のネタになるのだろう。

周囲の人とある特定の人を虐めることにより、仲間を増やしていくパターンだ。正直、このパターンの人は、人間として最低だと思う。

が、相手をするのも面倒なので、今まで通り、1人で孤独にいこうと思った。

その結果、見事にクラスの一部からハブられるようになった。

とはいっても、授業中に自分があたったときに、野次が飛んでくるくらいだった。


そうして、1学期が終わりに近づいてくるころになった。

いつものように学校生活を普通にすごしていると、何か違和感があることに気が付いた。

周りの視線が・・・痛い。

何をするにあたってもそうだ。


給食の配膳のときに、当番に嫌な顔をされる。

クラスメイトと廊下をすれ違うだけで避けられる。

班活動時に、自分だけ机を離される。


・・・ここまで来ると、相手をするのも面倒になる。

まだ、クラスメイトにしかされていないのが幸いだ。

これが学年ぐるみにでもなると、たまったもんじゃない。

将来のためにも、貴重な時間を無駄にしたくない。

そんな思いを抱きながら、1学期は終了した。
夏休みに入り、たくさんの宿題をもらったわけだが、部活も何も友達がいない自分は、初日に終わらせてしまった。

もともと勉強は出来たほうなので、1学期の期末考査は楽に450点を越えた。

ということで、とてつもなく暇な40日間が始まった。


まわりの生徒は中体連やら、中文連やらで大変そうだ。

自宅は、マンションの最上階なので、窓から校庭の様子が良く見える。

午前中は、父親が自分のために買ってきた最新型のPCで、ネットサーフィンをして時間を潰しているが、どうしても午後は暇になる。

そんな自分を見かねた両親は、クラブチームに入ることを勧めたが、今回の件で人と触れ合足うことが嫌になっている自分は聞く耳をもたなかった。

だが、運動不足で体育の授業に支障が出るのが嫌だったので、毎朝近所をジョギングしていた。




そうして夏休みから1週間が経過した。

いつものように、PCを弄っているところに、インターホンが鳴った。

両親は夏休み中も日曜以外は常に仕事が入っていたので、自分が出なければいけない。

大抵は郵便か、セールスマンが来るぐらいで、後者の場合は、両親がいないと言うだけで帰ってくれる。

重い体を持ち上げて、玄関のドアの前に立つ。

のぞき穴をのぞいてみる。

そこには、郵便屋でもセールスマンでもない、自分と同じくらいの少女が立っていた。
そう、この少女は、同じマンションに住む幼馴染・・・と言えるのかは分からないが。

中野美希(ナカノミキ)だ。

中野「上条クーン!」

上条「ん・・・中野か。こんな朝っぱらから何のようだ?」

中野「そろそろ夏休みの宿題終わってるかなーと思って。ちょっと私に教えてくれない??」

上条「残念だが、俺は今とてつもなく忙しくてだな・・・」

中野「おじゃましまーす」

上条「っておい!勝手にあがるんじゃねーよ!」


・・・中野とは幼稚園のころからずっと一緒で、同じマンションということもあり、ちょくちょく遊びに来ているのだ。

中学にあがって、部活動を始めたらしく、てっきり来なくなっていた。

なので、中学になってから中野が家に来たのは今日が初めてだ。

中野「うわー、上条君の家にくるのって久しぶりー。・・・そして私より部屋が綺麗なのがムカツクー!ww」

上条「まぁ、汚くなるようなことなんてしてないからな。というか中野、今日の部活はどうしたんだ?」

中野「今日は、顧問の先生の体調が悪くて、各自で自主練するように!って。私、フルート担当なんだけど、他の仲間が居なかったから家で練習するんだー。」

上条「・・・それって良いのか?」

中野「いーのいーの!吹奏楽部って案外適当だからーwwていうか、上条君は部活動しないのー?」

上条「そりゃあ・・・面倒臭いからな・・・。部活動のための費用がかかると、親にも迷惑がかかるし。」

中野「ふーん・・・。本当は一緒にやる人がいないからじゃないのー?ww」

図星だ。

中野「だったら一緒に吹奏楽部に入れば良かったのに。」

上条「今の吹奏楽部って女子しかいないだろ?あんなところに入ってもやっていけないさ。」

中野「ハーレムじゃん!絶対楽しいと思うよ~」

上条「・・・はいはい。さっさと勉強終わらせようぜ。」

リビングのテーブルに、とっくに片付けた宿題をボンッと置いた。

中野の顔を眺めてみる。

いつも楽しそうな顔をしていて、こっちまで楽しくなりそうだ。


そんな中野も、自分がハブられていることに薄々は感づいているはず。

クラスは違うが、噂やら何やらで耳にしているはずだ。

だが、自分に対しての態度は昔っから変わっていなかった。


中野「ねぇ~、上条クーン、聞いてる?」

上条「ああ、聞いてるさ。その式はxを代入すれば解けるぞ。」

中野「・・・おー!さすが上条君!」


数学では学年で負けない自身がある。

この前のテストも満点を取った。

むしろ数学で点を落としている人が不思議でたまらない。

そんなうわ言を考えていると、中野がいつもは見せない真剣な顔をして話しかけてきた。

中野「上条君、中学に変わってから何かあったのかな?私、それがずっと心配だったんだけど・・・。」

やはり気づいていたようだ。

上条「そうだな・・・勉強が一段と難しくなったかな。」

中野「そうじゃなくて、その・・・友達関係とかで。」

上条「・・・別に変わったことないさ。小学校といつもどおりさ。」

中野「・・・そう。」


中野はそれ以上の深入りはしてこなかった。

2時間ぐらいしただろうか。

中野の宿題がきりのいい所で終わったのを見計らって、中野を家に帰らせた。

中野本人はまだまだ帰るつもりは無かったのだが、このあと用事がある、という嘘までついて無理やり帰らせた。

今後も、うちは結構忙しいから無理だと伝えて、なるべく来ないように、と後付した。


これ以上、自分と関わってしまうと、周りも放っておかないだろう。

中野には悪いが、これからの縁は切らせてもらう。

幼馴染ではあるが、これも中野本人にも、自分にも一番良い形になるであろう。

ためらいはなかった。




夏休みで出来事があったといえば、この日ぐらいだったと思う。

ひたすら暇で暇で何かの精神病にかかりそうだったが、ネットというひたすら広い世界を旅していると、気がつけば8月31日であった。


その日に、中野からメールが届いた。

『上条君、忙しいかもしれないけど、最後に私の宿題見てくれない?

ちょっとだけでいいから・・・ね?』


中野が顔文字も絵文字も使っていないメールなんて初めて見た。

まさか、まだ宿題が終わっていないなんて言わないよな・・・。

夏休みの最後ぐらいは会ってもいいかな。

中野に、OKの返事を送った。