「陽菜子ー。一緒にお弁当食べよう」
お昼休み。
麻美が、お弁当の包みを持って、笑顔で声をかけてきた。
うん、と頷きかけて、私は先生に呼び出されていたことを思い出した。
「ごめん。私、職員室行かなきゃ」
「待つわよ」
「いいよいいよ。時間、どれくらいかかるか分かんないし」
麻美の優しさに甘えたいところだけど、そうもいかない。
私を呼び出した先生は、山本先生だからだ。
先生は話が長いことで有名。麻美も巻き込むのは可哀そうだ。
私はお弁当を持って、足早に教室を出て行った。
外では、少し風が強くなっていた。
桜の花びらが、風に誘導されて舞ってゆく。
「おお、佐々木、こっちだ」
職員室へ入ると、山本先生の声が聞こえた。
そちらを見ると、のんきにお弁当を食べながら手を振っている。
私は先生の席まで歩いて行った。
先生は愛妻弁当らしきものを食べていた。
そういえば、山本先生は最近結婚したんだっけ。
「どうだ、うまそうだろう」
そう言って嬉しそうにお弁当を見せつけてくる先生。
突きつけられたお弁当には、ご飯の上にハート型にノリがのっていた。
それを見て、思わず苦笑いになる。
だって、そのほかにはウインナー二つしか入ってないんだもん。
「あ、そうだそうだ。今日呼び出したのはな、学校に、お礼の電話があったからだ」
「電話?」
先生は、お弁当をガフガフかきこみながら、頷いた。
せっかくのハートが、無残に壊れてゆく。
それはそうと。
電話とはなんのことだろう。
私になにか、関係あるのかな? 私は首をかしげた。
「この前、お年寄りに道案内したんだってな」
その言葉で、ようやく分かった。
ああ、あのことか。
それは、数日前のことだった。
学校帰りに、横断歩道できょろきょろしていたお年寄りを見つけたので、どうかしたのかと声をかけたのだ。
あの時も何度もお礼を言ってもらったけど、学校にまで……。
親切に案内して良かった。私の心は、ぽかぽかと温かくなった。
「お前のおかげで、うちの評判も上がった。よくやった!」
そう言って先生は私をひとしきり褒めると、すばやく職員室から追い出した。
こっちは感動で浸ってたのに、なによ!
「離婚しちゃえ!」
そう捨て台詞を吐いて、私は足早に職員室を後にした。