「OK」

 と言った彼は、おもむろにスローテンポなバラードを口ずさみ始めた。

 初めて聴く曲だった。

 そっとレナに尋ねると、彼女は小声で、

「『君の瞳ゆえに…』よ」

 と言って、人差し指を立て、唇に当てた。

 高音が少しハスキーな感じになっていたが、かえってそれがすごく良い感じで、聴き惚れてしまいそうだ。

 この曲を歌い終えると、今度は、リサとリュウヤさんに向かって缶ビールを掲げ、

「サッチモに敬意を表して……」

 と言って、

『聖者の行進』

 を歌い出した。

 彼は、フレーズとフレーズの合間に、

「カモン!」

 と言って、聴いていた僕らに一緒に歌うよう促した。

 コーラスは、いつの間にか、他の観衆をも引き込み大合唱となった。

 僕達を囲む人だかりは、幾重もの輪になっていた。

 手拍子でリズムを取る者、バーベキュー用の串をスティックにして、クーラーボックスをドラムに見立てて叩き出す者。

 たった一曲の歌でこんなにも大勢の人間が、性別も国籍も言葉も越えて一体になれるなんて信じられない位だった。

 曲は、『聖者の行進』から『ワンダフル・ワールド』へと変わった。