レナがワンコーラスを歌い終えると、リュウヤさんがボイスパーカッションでリズムを取り出した。
リサが、それこそミニー・リパートンばりのハイ・トーンボイスを聴かせ始めると、ワンコーラス目とはガラリと曲調が変わった。
ゴスペル風の歌になってツーコーラス目に入った。
三人の声に、途中から目立たないようにT・Jの声が加わって来た。
T・Jは目をつむり、何かを思い出すかのようにハミングしている。
曲が終わると、それ迄聴衆に回っていた星野さんが突然歌い出した。
その曲は、僕も知っている古い歌謡曲だった。
皆、うっとりとして、以外な程の美声に聴き惚れていた。
今度は、ユウスケさんが『愛の讃歌』を熱唱し、それが終わると、意を決したような表情ですくっと立ち上がったナナちゃんが、リサの助けを借りて、ザ・ピーナッツの曲を歌った。
少々音程が外れたり、歌詞を間違えたりしても誰も気にしなかった。
心から、歌う事を楽しんでいた。
ユウスケさんの熱い眼差しに見守られながら、シンタロー君が『学生街の喫茶店』を歌い終えた。
すると、皆の視線が僕に注がれた。
レナが僕の背中を叩いて、
「コーイチの歌も聴きたいな」
と言った。
さてさて、せっかくの良い雰囲気を僕の下手くそな歌で台無しにしていいものかと思ったが、T・Jが目で、
(さあ……)
と促して来たので覚悟を決めた。
僕が選んだ曲は、ビートルズの『ヘイ・ジュード』だった。
唯一、英語の歌詞を全部覚えてる曲。
それがこれだった。