「こりゃあ驚いた。俺の目ん玉がどうかしちまってるんじゃなけりゃ、アンタは正真正銘神野タカシに違いない」

「フルネームで呼ばれたなんて何年振りだろうか……」

「ねえリュウヤさん、彼も一緒に構わないだろ?」

「おいおい、俺がNOと言うと思うのか。大歓迎に決まってるだろう。
 さあ、こっちへ来て冷たいビールでも飲みながら、皆で天国に行こうぜ」

「ゴー・トゥ・ヘブンよりもゴー・トゥ・ヘルの方が俺にはお似合いだがな」

「それなら俺もだな」

 T・Jとリュウヤさんのやり取りは、まるで掛け合いの漫才みたいだった。

 足取りの覚束ないT・Jの手を引いて皆の待つ木陰に連れて行った。

 新しい客に真っ先に反応したのはマックスだった。

 尾を振りハフハフと云いながら、T・Jの匂いを嗅いでいる。

 どう見ても風呂どころかシャワーすら何ヶ月も浴びてなさそうだから、かなり臭うのだろう。

 レナから渡されたビールを旨そうに飲みながら、マックスの柔らかい毛に触れ、

「大概の人間には鼻がひん曲がる程の臭さなんだろうが、犬のお前には旨そうな匂いにでも感じるのかねぇ」

 皆、一目でT・Jを気に入ったようで、彼の服装とか体臭なんか、全然気にならなかった。

 と言うより、本当は皆かなり飲んでいたので、誰もが酒臭かっただけの事で、これが酔っ払う前の事だったら、やっぱり鼻栓が必要だったかも知れない。