千裟の家に着くと
千裟の父親がいた
千裟の様子を心配して
母親が早く帰って来るように
云ったのである。

「おじさん、こんにちわ」

帰ったばかりなので
まだ背広を着て居間の
ソファーでお茶を飲んでいた。

千裟の様子を母親から聞いて
いた様子で、二人の
間には重い空気が流れて
いたが、衛の声がその
空気をかえた。

「おう!久しぶりだな」

「悪いな、今日は」

一人っ子の千裟、
それも、女の子
いつも家の中は静かであった。

千裟の両親は子供の声が響く
にぎやかな
家庭がうらやましかった。

衛は千裟の父親の横に
座り傍から見れば
親子の様だ。

40半ばの千裟の父親は
鉄鋼メーカーに勤め
職業の如く「かたい」
男で遊びや賭け事など
何もしないようだ。

「おじさん、競馬場

行った事あります」

「どうした!競馬

やるのか」

と驚いた様子で答えた

「今日、初めて近くで

馬を見て、綺麗で

利口でかずちゃん見たい

だったんだ。」

と言うと偶然千裟が
その事を聞いて
居間に入って来た。

「私は、馬かよ!」

と元気そうに声を
掛けて来た。

その声と顔をみて
両親は安心し、
改めて衛の存在を
認識した。