《コウ》

斉藤温子が学校に来ない。
それも二日もだ。……今日で三日目。
先生は風邪だと言うし、桜井も何でもないというけれど、オレは――どうしても、そうじゃないって気がしている。
でも風邪をこじらせて三日くらい休むっていうのはありえないことではないし、そもそもオレは何でこんなに不安になってるんだ、って話でもあるんだけど。

これは勘だ。
ただの予感でしかない。
でもなぜだろう。
オレは、斉藤に何かよくないことが起こってる、って――そんな気がしてしまうんだ。

オレが斉藤について知っていることは、あんまりない。
バドミントン部。
中学のときは生徒会長をやっていた。
セミロングの髪。
頭がいい。
あと、八方美人とは違くて、誰にでもやさしい。

今年に入って初めて同じクラスになったから、知ってるのは見て明らかにわかることと、それから噂で聞くことくらいだ。

オレは本当に、斉藤のことなんかほとんど知らない。
だけど――

「……コーウ!」
休み時間にぼーっとしているオレに、前の席の桜井樹が話しかけてきた。
「ん? ……あ~桜井、何?」
「コウがぼけっとしてるの、珍しいなと思って」
桜井はくすくす笑った。
何で笑うんだ。オレの顔、何かついてんのか?
「いや、現国のあとっていつもこんな感じよ? オレ理数系だからほんっとだめでさ。あと……ちょっと考え事してて」
そう言うと、桜井はオレの顔をまじまじと見つめた。
……やっぱり、何かついてんのか!?
そう思って頬とか額とかを手でさっと払っていると、桜井はぶぶーっと吹き出した。
ええ~何だよ本当に!
「ちょ、何がおかしいんだよ!」
「え、いやぁ~、コウ可愛いなぁって」
「はぁ~!?」
桜井は笑いすぎでごほごほと咳き込み、目の端に少し涙をためながら言った。
「それってさ、アツコのこと?」
「っ……はぁ!?」
オレは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
な、何でわかるんだ……。