《僕》

「もう少し寝る~」と言って聞かないあっちゃんをとりあえず寝かしておいて、僕は朝食を作る。
すごいものとかは作れないけど、とにかく作る。
だって、日課だから。

ベーコンエッグとサラダみたいなのを作ってから、もう一度あっちゃんを起こしに行く。
「もう少し!」とねばるあっちゃんとしばし格闘してから、何とか僕が勝つ。

「ほら、早く食べないと遅刻するよ!」
そう言って髪の毛ぼさぼさのままで、さっき着替えたばかりって感じのよれよれのあっちゃんにご飯を食べさせる。
と言ってもあっちゃんはものすごく小食で偏食だからいつも朝食のほとんどが残されてしまう。
でもいつものこと、いつものこと。

もそもそと食べ続けるあっちゃんを急かし急かし僕も朝食を採っていると、やがて時間になる。

「あっちゃん、遅刻だよ」
僕が時計を指して言うと、あっちゃんはトマトをフォークに刺したまま、小声で
「……ん」
と頷いた。それから、「今日、学校……休む」とも。
「……あーはいはい、わかったよ、休みね……」
僕はため息混じりにそう言って、食べ終わった分の皿を片付けにキッチンに向かった。

……最近あっちゃんは学校に行かない。
ここ数日、ずっとこんな感じだ。
僕はというと結構そんなあっちゃんが心配だったりするのだけれど、あまり口には出さない。
お互いのことには過干渉しない。
それが、僕とあっちゃんの間にある、唯一絶対のルールなのだ。

洗いものを終えてリビングに戻ると、あっちゃんはまだサラダと格闘していた。
と言ってもフォークを握ったまま皿の上のレタスとにらめっこするっていう、完全な冷戦状態だったけれど。
ちらっと時計を見るともう九時を回っていた。
……やば。

「あっちゃんそれ、自分で片付けられるよね?」
あっちゃんは僕を上目遣いに見て、かすかに頷いた。
よし。
「それじゃ、遅刻しちゃうから僕行くね」

あっちゃんを部屋に残して僕は家を出る。
僕まで遅刻したら大変だ。