父と母が作り上げてきたものを
私の想いが壊してしまっても
いいの・・・?
私は、こわい・・・
とっても、コワイ。
父と櫂ちゃんには
槇との関係を知られたくない。
できれば
ずっと永遠に知られたくない。
このまま
秘めた恋でもいい。
家族が崩れないなら・・・
そんな事を想ってしまう私に
槇との未来なんて有り得ない。
私は
この家族が、この家庭が
壊れる事を恐れたばかりに
大切な事を見失ってしまった。
大切なのは、二人の想い・・・
私は、見てもいない
ドラマを食入るように
見つめた。
母に
声をかけられないように・・・
「マキ、具合どう?」
「薬、飲んで眠ったら
頭痛は、治まったよ」
「そう、良かったわ
お腹は、どう空いてない?」
「少し減ったかも・・・」
「じゃあ、チャーハン
作ってあげるわ
そこに座って
サクラ
あなたも食べるでしょう?」
「ううん、私はいいよ
お土産のケーキを食べて
もう、お腹いっぱい
それより、ママ、私
お風呂に入ってくるね」
「ええ」
「サクラ・・・」
私は、槇の顔が見れない・・・
『血が繋がらない貴方達は
兄と妹の関係で
ありながら
愛し合っている
その事を、家族はもちろん
知人、学校の人達が
知れば、どうなると思う?』
『彼女との未来に
何があるの?
その愛は
祝福されるの?』
不安な私の想いが
槇を、私以上に
不安にさせる。
槇の愛を手に入れた
それだけで
良かったはずなのに・・・
私の存在が
私の言葉が
槇を傷つける。
私は槇、貴方に
傍に居てほしいと願う反面
父や櫂ちゃんに私達の関係
を知られる事を酷く懼れ
それだけは、絶対に
避けたいと、そう願う。
この二つの願いを
叶えることなんて不可能。
これからの長い人生
永遠に、この恋を
隠し通せる訳は無く。
二人が二人で居ることを
望む以上、いつかは
知られてしまう。
走り出した恋
もう、秘密の恋などでは
いられない。
誰にも知られたくなければ
槇と・・・別れるしかない。
槇と別れるなんて絶対に嫌。
だけど・・・・・・
私は、選択しなきゃいけない。
決められない、私。
決められる訳が無い。
こうして、迷う私は
知らず知らずのうちに
槇と距離を取るように
なっていた。
翌朝、いつものように
制服に着替えた私は
通学鞄を持って
リビングへ向かう。
すると、食卓には
櫂ちゃんの姿があった。
「カイ、今朝は
えらく早いわね?」
母は、珈琲カップを
櫂ちゃんの前に置いた。
「ありがとう
たまには、真面目に
通わないと・・・
留年だけは、ご勘弁」
「単位は
ちゃんと取れてるの?」
「それなら、任せてよ
心配は要らない」
「心配なんてしてませんよ
あなたは、本当
よくできた息子です」
「母さん
よく言うよ」
朝の光が指す、明るい食卓に
二人の笑い合う声が響く。
いつもとは違う、朝の風景に
私は立ち尽くす。
櫂ちゃんは、私と槇の関係を
知っているかもしれない?
櫂ちゃんに声をかける
勇気・・・無い。
「サクラ、おはよう」
私の肩に触れる、槇の手に
ビクッと驚く私
微笑む、槇。
私に緊張が走る。
「・・・おはよう」
私達が挨拶を交わす声に
気がついた母、そして
振り返る、櫂ちゃん。
櫂ちゃんの視線・・・
「アニキ、今朝は早いね?」
槇は、いつものように
自分の席に座る。
「まあな」
「サクラ、早く座りなさい」
私は、槇の隣の席に
なかなか座ることが
できない。
「今、食パン焼くわね
少し待ってて」
「ママ、私
朝ご飯、いいや
友達が待ってるから
もう、行くね」
「えっ、サクラ」
「サクラ?」
槇の声に呼び止められて
私は槇を見つめる。
「先に行くね・・・
いってきます」
「いってらっしゃい」
私の態度が大好きな
槇を不安にさせる。
「あらっ、サクラ
お弁当、忘れてるわ
そうだ、マキ
悪いけど学校に
持って行って、サクラに
渡して・・・
マキ?」
槇は、席を立ち
お弁当を二つ、手に持つ。
「俺も、もう行くわ」
「あら、あらっ
今日は学校で
何かあるの?」
お弁当箱を鞄にしまった
槇は靴を履き、慌てて
出て行く。
「いってきます」
「いってらっしゃい
二人とも
どうしたのかしら?」
首を傾げる母。
櫂は、何も言わずに
朝ご飯を食べる箸を進める。
私は、食卓から逃げるように
学校へと続く道のりを走る。
青信号、走って横断しようと
した私を呼び止める槇の声。
「サクラ、待って」
私は、歩みを止めて
振り返った。
信号は、赤に変わり
走り出す車・・・
「マキ、どうしたの?」