あたしは急に自分の名前を呼ばれビクッと立ち止まり振り向いた











「なっ…何で??」








「忘れ物」






彼はまだ石段に腰掛けたままで、あたしのハンドタオルをヒラヒラさせた









「あ…」





お母さんだ…ι





いくら趣味だからって娘の持ち物に名前を刺繍するのは止めて欲しぃι






「かっ返してください!」





走って彼の所まで行くとハンドタオルを奪い取った



「あなたなんかに声かけなきゃ良かった!心配して損しました!」



キッと睨み、また走り去ろうとしたその時、











ガシッ










走り出すのと同時に左手を強く掴まれ、ガクンッと立ち止まってしまった

その拍子にあたしの被っていたキャスケットが足元に落ち、帽子の中に入っていた髪がパラパラッと肩から背中へ流れていった…








「レン…」






「は…?」








「あなたじゃなくてレンだよ」









…レンだよ




そう言った次の瞬間、
パッと掴んでいた手を離し、










「マタネ…」
と微笑んだ











あたしは無言のまま落ちてしまったキャスケットを拾うと、付いた土を払いもせずに深々と被り、全速力で走り出した