「桜子さん、俺はあなたと――」

「これあげますっ」


肝心なところで邪魔をされる。

肩を落としかけた正二は、手渡された紙を見てようやく気付いた。

桜子は全て分かっているのだと。


描かれていたのは、匂い立つような満開の桜。

と、太い眉にへの字口の少年。

隣には泣きぼくろのあるおさげの少女。


絵の中の二人は手を繋ぎ、幸せそうに微笑んでいた。


「私、言葉なんて欲しくないんです。
欲しいのは……」


静かに顔を伏せた桜子の足袋を、涙の雫が濡らした。

 * * *