「……はい、完成です」

「見せてください」

「嫌ですよー」

無邪気に笑って紙を背に隠す桜子。

鬼ごっこの誘惑に乗りかけた正二は、桜子の瞳に夕焼けの茜色を見つけた。

もう時間が無い。


「桜子さん、聞いてください」

「何でしょう?」

「あの歌を詠んだ西行法師は、桜の花を愛していました。
『死ぬときは桜の下で』
と願うくらい……そして俺も」


桜子の丸くつぶらな瞳が、パチパチと素早く瞬きする。

これは一生懸命考えている時のしぐさだ。


つまり、伝わっていない。


正二は覚悟を決め、大きく息を吸い込んだ。