ひゅうひゅうと鳴る喉を気合いで止め、口をへの字に曲げて。

太く凛々しい眉の間に縦ジワが入る。


「もう知っているんですね。
赤紙のこと」


冷たい風が桜子の前髪を揺らし、細い肩の向こうへと流れて行く。

その先には慣れ親しんだ桜の木。

薄紅色の蕾は春の訪れを告げているというのに、花開く時を待たず正二は戦地に行かなければならない。

いつもは青白い顔を赤く火照らせ、正二は言った。


「俺、必ず生きて戻ります。
だから――」

「あっ正二さん、その表情良いです!
そのまま動かないでくださいます?」


眉間のシワが深まる正二にも頓着せず、桜子は渡された紙を鞄にしまうと、新しい紙と鉛筆を取りだした。

こうなった桜子には逆らえない。

大人しく制止した正二は、黙々と筆を動かす桜子の姿を胸に焼き付けた。