「あなたは自分で思っていたよりも凄く早くに赤ちゃんを授かってしまった。」

鏡華さんは由美さんの机に飾られた、友達と楽しそうにしている写真を見て言います。

「まだまだ自分だって遊びたい盛り。あなたまだ二十歳になったばかりでしょう?」

「……そうよ。去年成人したんですもの。」

由美さんは不安を打ち消す為か泣き止まない赤ちゃんをぎゅっと抱き締め続けています。

「育児の知識もないのに夫に逃げられて、たった独りで赤ちゃんを見ていかなければならなくなった。」

「…………。」

「最初のうちは保健師さんが様子を見に来てくれていたけど、それももうない。あなたは本当に独りで子育てをせざるを得なくなった。」

僕ははっとしました。

由美さんが涙を流していたのです。

「分からないから何もしない。これは一つの虐待になってしまうわ。ネグレクトと呼ばれる育児放棄ね。」

鏡華さんは育児の用語を使っているようでした。

何でそんなことを知っているのでしょうか。

「でも、あなたは大丈夫よ。ちゃんと赤ちゃんの面倒見れてるじゃない。ちゃんと赤ちゃんを抱き締めてあげてるじゃない。」

ひっく。ひっく。とすすり泣く由美さんの背中を鏡華さんが優しく撫でます。