希美ちゃんはまた礼雄くんにもらった赤い花に、鼻を近付けます。

「これ何ていうお花?」

礼雄くんは自分が買ってきた花をちらりと見て言います。

「知らね。安くて元気そうな花はねぇかな?と思って買っただけだから名前とかいちいち覚えてない」

「えーっ、名前も知らない花をお見舞いに持ってくるってあり?」

「ありだろ。真っ白なだけの部屋に花でもあれば少しは気もまぎれるだろ?」

「……そうだけどさぁ」


カサカサと木々が揺れる音。

公園が近くにあるため昼間には子供の声も聞こえます。

「ねぇレイちゃん」

「……ん?」

「また前みたいに折り紙のお花作ってきてよ」

面会時間も過ぎた今頃は時折通る車の音が聞こえてくるだけです。

希美ちゃんの言葉に礼雄くんはうつむきました。

「作んねぇよ……ガキじゃねんだから」

希美ちゃんは礼雄くんの頭を撫でようとしていた手を、静かに引っ込めました。

「レイちゃんまだ中1じゃん、大人じゃないよ」

礼雄くんはその言葉で胸がギシッと軋むのでした。

そしてゆっくりと立ち上がります。

「そうだな、大人じゃねぇから希美の病室に見舞いに行ってやることもできねぇ」

悲しげにそう言って礼雄くんは帰っていきます。

「レイちゃん……」

希美ちゃんはしばらく礼雄くんの座っていた場所を見つめたまま、夜の風に吹かれていました。