階段を上がって左手の部屋。

扉にはクマの表札に「かずま」と書かれています。


「一真。お友達が来てくれているわよ」

コンコンと扉をノックしてお母さんがそう言いました。


中から返事はありませんでした。

「野村くんこんにちは。クラス委員をしている篠原恵です。今日は野村くんにプリントを届けにきたよ」

明るい恵ちゃんの声にも返事はありませんでした。

「ごめんね。まだお友達と会うのは嫌なのかもしれないわ」

お母さんが悲しそうに言いました。

僕は扉をコンコンと鳴らします。


「おはようございます。良い天気ですね」

「?」

突然の朝の挨拶にお母さんと恵ちゃんは不思議そうに首を傾げました。

返事はありません。

「明日また待っているね」


僕は最後にそう言って、心配そうに見つめるお母さんに笑いかけました。

僕達は一真くんのお家を後にします。

陽が落ちかけていて道路には影が濃く写っていました。