『えぇぇぇぇぇーーーーー!!』
BGMをかき消すほどの大きな声。
「俺も聞いたときはビックリしたよ」
『そんな‘お涙ちょうだい’みたいな話、みんなのランチのネタにされるじゃない。絶対にイヤよ』
一瞬、いつも凛としている中谷さんが、拗ねる少女のように見えた。
中谷さんは学生のときに一度、結婚、妊娠、女の子を1人出産していた。
しかし、子どもが2歳になるのを待たずして離婚。
相手が社会人で、なかなかの金持ちで、当時、学生だった中谷さんは親権を取れなかった。
『私ね、待っているの。
子どもが自分で親を決められる年齢まで。
自信があるの。絶対に私のところに帰ってくるって。
愛情こめて、おっぱいだってたくさん飲ませたわ。
母性愛に勝るものなんてナイわ』
強い母親の表情。
それに同情するわけでもない、賛同するわけでもない池田さんの表情。
男にはわからない。
わかろうとしても絶対にわからない。
母親と子どもの絆。
見えない、無限の愛のカタチ。
そんなものが本当に存在するんだってことを、強く感じた…―――。