『わかってますよ!!
自分の子どもには私のようになって欲しくない。
世界中のみんなが敵になっても“お母さんだけは見方だ”って思って欲しいから……
男に振られたからなんだ!“私には見方がいるから大丈夫”って思って欲しいから……
強くならなきゃ。
人のために生きなきゃ』
子どもの顔を思い出したのか、池田さんの表情がゆるむ。
『もう生きてるじゃない?娘さんのために』
中谷さんの質問に首をかしげる池田さん。
『その手…―
前は妊婦だってのに、入院してるのに、つけ爪してたじゃない。
その手の荒れは水仕事をしている手。
短く切られた爪は、わが子を傷つけないための優しいお母さんの手。
その優しい顔は、わが子を抱くときの、幸福に満ちた顔』
その場の空気が、優しさを含んで変わっていく。
さっきまではうるさかったBGMが、心地よく耳に届く。
『恥ずかしいです……
こんなわたし。
正直、まだ実感ないんです。
“お母さん”てこんな感じなのかな?
とかって、手探りでやっている状態で……』
『みんなそうよ?
そうやって、ゆっくりお母さんになっていくのよ』
『中谷さん、なんか経験者っぽい?』
クスクス笑いながら俺と目を合わせる中谷さん。
話す気、だな……
『私ね、実は子どもがいるの』