日が沈み、墨をといたような空に星が瞬き始めるまで、私は誰もいない屋上で体育座りをして待ち続けた。

私の体温を吸い、右手の内でぬるく存在を主張する銀の鍵を、ここから落としてしまった「誰か」を。



結局、誰も現れることはないまま、響いたチャイムに私は立ち上がった。

下校時刻を知らせるチャイムだ。もうじき事務員の巡回が始まり、屋上もチェックされるだろう。

重い扉を抜けて、しっかりと施錠する。やはり屋上の鍵だった、とここで初めて確認した。


ブレザーの胸ポケットに鍵を落として階段を降りる。



それきり、私はその鍵を学校に返さなかった。

落ちていたと素直に言って事務室に返すのが、優等生としては当然の行動だった。

でも、私は優等生のまがいものだったらしい。


その鍵を使って屋上に忍び込むことを覚え、そこで小坂と出会ったのだから。