その人影はすぐに消えてしまった。

今になって思えば、どこかから鍵を手に入れた生徒が、何かの弾みでそれを落としてしまったのだろう。

私が鍵を拾うのを見て、慌てて階下へ降りたに違いない。

鍵を取り返そうと思ったのだろうか。
屋上への生徒の立ち入りは禁止されていたから、逃げたのかもしれない。

もっとも、その時点で私には、それが屋上の鍵だという確証もなかったのだけれど。



そのときの私は、そこまではっきりと何かを考えていたわけではなかった。

ただ、目の前に降ってきた銀色の鍵と、目の錯覚かもしれない屋上の人影。

頭の中でそのふたつが合わさって、私の足は自然と屋上へと向かい、そして誰ともすれ違うことなく着いてしまったのだった。



頑丈そうな扉の前で、しばし立ち尽くす。

それから、ノブを握って捻る。すんなり回ったそれが夢の中のものに思えた。



鈍い重い音をあげて、扉が開く。




そこで私を待っていたのは、真っ赤な空だった。



沈む直前の夕日が最後に放つ、燃えるような赤に染められた、空だった。