「そんなに見つめんなって。照れちゃうだろ」


茶化しながら、わざとらしい視線を向けてくる。

恋人でもないのに、今この時間は二人だけのためにある、そんな錯覚を起こさせる甘い微笑だ。

こういう顔ができるから小坂はモテるんだろうと思う。


「そんなんじゃないし」

「冷てえなあ、副委員長は」


喉を揺らすようにして、小坂が笑った。






私が昼食を終えて、弁当箱を包み直していると、金網の前に立ってグランドを見下ろしていた小坂か振り向いた。


「長谷川は、なんでこんなんパクったわけ」


その指先には、私が昨日譲ってやった、屋上の鍵。

太陽を反射して光るそれが、小坂の長い人差し指に引っかかってくるくる回っている。



ああ、と私はため息にも近い声を漏らした。


「なんで、って言われてもなあ」



そもそも、私が望んで手に入れたわけじゃない。

鍵の方から私のところにやってきたと言ったほうが、よほど正しかった。



「落ちてきたんだよね」

「は? どっから」

「空から」

「嘘つけ」


ほんとだって。



その鍵は、空から降ってきたのだ。

私の手の中へ。