できない。
大好きな人を殺すなんて、わたしにはできない。
人魚姫は力なく部屋を出ると、ナイフを海に捨てました。
お姉さま、ごめんなさい。
いつの間にか、空がほんのりと染まっています。
太陽が昇ってこようとしていました。
「さようなら」
声にならない叫びをあげて、人魚姫は海に飛び込みました。
体がとけていくのが分かりました。
ああ、わたし泡になっていく・・・
人魚姫はそう思いましたが、死んだような気持ちにはなりませんでした。
明るくて温かい日の光を感じたからです。
全てがきらきらと輝いていました。
海も、船も、町も、いろいろなものを見ることができました。
人魚姫は空に浮かんでいたのです。
周りには透き通った美しいものが人魚姫を囲んでいました。