楓は、家の近所のケーキ屋さんでパティシエとして働いている。

楓がパティシエを目指した理由は、母親にあった。
3姉妹の母親は料理がとても上手で、よく娘たちにも料理を教えていたのだ。
その影響で、楓も料理好きになり、パティシエになったのだ。

楓の腕前は、近所でも評判で、誕生日ケーキを楓に作ってもらいたいとお客から指名を受けるほどである。



朝出勤してから、夕方閉店後後かたずけをして帰宅するまで、楓の頭の中はケーキのことでいっぱいなのだ。

そんな、楓の今の目標は、今の店から独立し、自分自身のお店を持つこと。
そのために、楓の通帳の中には毎月少しずつではあるが、貯金がたまっていっている。

楓の作ったケーキでお客さんたちが、笑顔になる。
それも楽しみの一つだ。

この日、楓が働いている店に女の子が来た。
「あのね、ママに内緒で誕生日ケーキ買いに来たの。
お金も、自分のお小遣い貯めたんだよ。」
そう得意気に語っていた女の子の手のひらには確かに小銭が握られていた。

150円。

女の子が少ないお小遣いのなかで、一生懸命貯めたのだろう。


しかし、楓が働いている店で売っている一番安いショートケーキは200円。

「これでママをびっくりさせるの。」

と言っている女の子に、この現実を突き付けるのはあまりに酷だ。


あっ!

楓は、自分のエプロンの中に50円玉が入っているのを思い出した。
昼間にコーヒーを買ったときに釣りだった。

「じゃあ、このイチゴのケーキをママにあげようか。」

そう言って、女の子から150円を受け取り、こっそり自分のポケットに手を伸ばした。








「ありがとう!」

この笑顔が楓は忘れられなかった。