彼女は歌った。あの、狂おしい愛の歌を。
それ以外の歌は忘れてしまった。

その美しい声が奏でる旋律は、いつも一つだけ、まるで人魚ではなく、人形だった。

やがて港には人が近寄らなくなった。
彼女の狂った歌声は、町の誰もを気味悪がらせたからだ。


彼女は帆船が港に向かって来る度に、愛の歌を歌う。

やがて彼女は魔女と呼ばれるようになる。歌声で船乗りを惑わす魔女―――ローレライ。


誰もエトワールという名前を覚えてはいなかった。

全ての人間が、彼女をローレライと呼んだ。