理由はウィルの浮気やった。
ただの浮気じゃなく、ウィルは相手の子を腹ませよった。
その子は同じ高校じゃないけどタメの女の子やった。
しかもギャルでヤリマンで有名。
他人にあんま関心ないわたしでも知っとる女。
ウィルを狙っとるなんて知らんかった。
アイツは…ウィルは浮気しないっていう約束、破ってしもた。
「産みたいって言っとるし…俺、責任取ろう思とんねん。最初は金だけ出してなかったことにしようて思っとった。でも、簡単に殺してええものと違うから…。」
今冷静に思い返せばウィルらしい。
ほんま優しいからな。
その言葉を聞いたとき、わたしは強がった。
「そうなんや、ええんやない?結婚してやり。」
そしたら頭を下げ、「里美、俺ほんまお前には悪いて思っとるねん。」という言葉を発した。
ウィルがわたしから離れていく、そしてわたしじゃない子を好きになる。
ウィルの目にわたしはうつらなくなる、そしてウィルの手に繋がれてる手はわたしではなくなる。
こんなに絶望したこと、産まれて生きてきてなかった気がする。
形だけの父親、母親、形だけの祖母に色んなことをされたことがあるけど、ここまで絶望したことはなかった。
それだけわたしはウィルを信用してたから。
好きだったから。
でも最後まで強がってしまったわたしは自分で情けない。
嫌や!って言うことが出来ひんやった。
わたしは最初から最後まで素直になれへんやった。
1番キレたのは志穂やった。
志穂はウィルを見た瞬間、平手打ちをかました。
「あんたなんでそんなことが出来るん?里美と付き合っとって他の女腹ませて結婚とか何やねん、ほんま。しかもよりによってあんな女…。わたしはあんたを一生許すことは出来ん。はよ学校辞め。里美の視界からはよ消えて!!目障りやねん!!!!」
その勢いある言い方をした志穂の言葉をウィルは黙って聞いた。
わたしはそれを黙って見ていた。
他人事のように。
すると後ろから猛がわたしの肩をポンと叩いた。
「里美、大丈夫なんか?お前。」
そういわれるとまた強がって
「なんでわたしが落ち込まなあかんねん。見る目なかっただけや。気にしとらんし。」
そう言った。
もちろん嘘。
それを猛は見抜いとったと思う。
そして猛はウィルをすごい勢いで殴った。
ウィルはもちろん倒れ、猛は小さい声で言った。
「俺、お前のこと見損なったわ。お前も好きやったけど今は里美が心配でたまらん。頼むからはよ目の前から消え。」
そして翌日からウィルは学校に来なかった。
そしてそのまま学校を辞めてしまった。
本当に最後までわたしはウィルに素直になれなかった。
この年、わたしは家で年越しを迎えた。
梢ちゃんや千尋ちゃんが気をつかって誘ってくれたけど行く気がしなかった。
ウィルが忘れられんからやない。
ただ、やる気が欠乏しとった。
そう思っとった。
この年、レコード大賞を浜崎あゆみが獲った。
このDearestと曲を聞いたことはなかった。
その曲を涙ながらに歌うのをただボーッと見ていた。
本当に大切なもの以外全て捨ててしまえたらいいのにね
現実はただ残酷で
そんな時いつだって目を閉じれば
笑ってる君がいる
これだけ。
ここだけ。
この部分だけでわたしは涙を流してしまった。
ウィルを忘れ切れてない自分がいることに気付いたときだった。
会いたいよ…。
ウィルの笑顔が見たいよ…。
あの…キレイな目が見たい。
涙がずっと止まらんかった。
それから3学期、空いていた隣の席にギャル男が引っ越してきた。
なれなれしく話しかけてくるのがウザかった。
ウィルの席に座ってるのがウザかった。
全てシカトしとった。
先輩とか同じ学年の奴に告白されたりもした。
全部冷たく断った。
前の席の北村エリカとそのギャル男がいつの間にかよく話す間柄になったからわたしはずっと授業中寝てた。
ウィルがおらんとクラスに友達もおらんし。
志穂と猛がおらんかったらわたしはほんま1人やった。
そしてわたしたちは高校2年を終えた。
クラス分けでわたしは志穂とも猛とも同じになれなかった。
志穂も猛も離れた。
3人ともバラバラ。
そこでわたしたちは「絶対友達を作ること。」という約束をした。
頼りすぎた関係から少し自立するために。
そしてこの高校3年の出会いがわたしの生きる道を大きく変えた。
ただ、いい方ではなく悪い方へ。
わたしの心の中にいたのはこのときはまだウィルだった。
目を閉じたら思い浮かぶ笑顔もウィルだった。
「いい思い出だけ取っておけばええやん。そしたら、もしいつか会っても笑って話せるやろ??」
こう言ってくれた彼。
彼は堅気の人間じゃなかった。
新しいクラスで仲良くなれそうな子を見つけようとしたけどわからなかった。
だいたい友達の作り方なんてわからんわ。
志穂もうまくやれるわけないやん。
そんな諦めモードの時だった。
「久保崎さん、スカートほつれてるよ?」
話しかけてくれた女の子がいた。
黒い腰までの髪をキレイにストレートにした女の子。
そしてオシャレメガネの中にはキレイな目。
「あぁ…ほんまや。帰ってからしとく。」
「ちょっとここ座って?わたし裁縫道具あるしやったげるよ。」
そう言ってスカートをきれいに縫ってもう落ちひんようしてくれた。
縫ってくれてるとき、話しかけてみた。
「ありがと。なぁ、自分名前何て言うん??」
「太田鈴。久保崎里美ちゃんだよね?仲良くしてな。」
「わたし友達おらんねん。ほんま仲良くしてくれたら嬉しいわ。」
「…ほんま?わたしと仲良くしてくれるん??」
その時わたしは殺気を感じた。
その方向を見ると目が合った女が3人。
目が合うとすぐに目線をそらされ、どっかへ消えた。
そいつらは廊下からこっちを見ていた。
顔は見たことあるけど名前は知らない。
「なんやねん、あいつら。太田鈴、よろしくな。」
「うん、里美ちゃんて呼んでもええ??わたしのことは鈴て呼んで。」
「鈴…な。わかった。わたしは里美でええよ。」
「なんで照れるん!!おもしろいわ、里美。」
わたしはどうにか友達ができた。
ほつれたスカートのおかげで。
「なぁ、さっきの女3人見た?なんであいつらわたし睨んでたん??知らん奴やったし。なんやねん。」
「あ…それ違うよ。里美、関わったらあかんで。里美巻き込みたくないし。わたし、前のクラスでいじめられとってん。だから友達もおらん。あいつらはわたしいじめとった人たちなんよ。だからわたし連れに来たんやと思う…。ただ里美とおったから言えんやったんちゃう??」
「ほんまの話なん?それ。」
「…友達辞めたくなった?どうせこんな話は早いうち聞く思たし、言ったんよ。気にせんでええよ。」
その言葉を聞いてしゃがんでいた鈴の目の前にわたしは立った。
「よっしゃ、行こか。スカートの礼や。さっきの奴らどのクラスなん?」
そう言って鈴から無理矢理クラスを言わせそのクラスに向かった。
そのクラスは猛のいるクラスやった。
キョロキョロしてるわたしの横で鈴が脅えて「ええって。こわいわ、ほんま。」と言っていた。
すると猛が寄ってきた。
「里美、何してんねん。もう友達出来へんってギブアップか??」
ニヤニヤしとる猛を尻目にわたしは探しよった。
「猛さがしに来たんやないんよ。……おった♪鈴、あんた教室帰っとき。わたしに任せて。」
そう言って鈴を無理矢理帰らせ、わたしはさっきの女のとこに行った。
鈴に聞かれたくもなかったし。
そこにはご丁寧にクラス違うくせにさっきの3人でかたまって笑っい合っとった。
わたしに全く気付かずに。
「さっき、あんたらこっち見てたやろ。何の用や。」
わたしがいきなりからんだから猛が驚いた顔をしてた。
こんなことするのは高校入って初めてだったし、猛も見たことなかっただろうから。
「違うんよ、ほんま。わたしら久保崎さんやなく太田さんに用あっただけで…。ごめんな、誤解させてしもたみたい。」
すごい気のつかわれようだった。
なんでわたしがこんな恐れられた喋り方されるのかサッパリわからなかったけどどこかでいらん噂がまわっとるのは間違いないなと確信した。
「そか、それならええんやけど。わたしな、1人の人間を固まってあれこれ言ったり殴ったりする人間が1番嫌いなんよ。言ってる意味、わかる?」
そう言うと3人は固まった表情を見せた。
「鈴はわたしのスカート直してくれたんよ。もう友達や。あいつを守りたいんのは分かるやろ?あいつに手出したら許さへんから♪黙っちゃおれんよ。ま、今でもあんたらボコボコにしてやりたいとこやけどな。」
そう言うと3人は顔を見合わせていた。
「分かったん?どっちや。喋れよ、イライラすんなー、ほんま。」
そう言うと1人の女が
「分かった、ごめんね。」
と何故か謝ってきた。
それにニコッと笑う仕草を見せてわたしはその場を去った。
「なるほど…。ってお前、友達出来たんかい!!」
猛は全てを察知したかのように驚いて言った。
「せっかく出来た友達が困ってるんほっとけるわけないやん。」
そう嬉しそうに言ってわたしは教室に戻った。
鈴は1人で座っていてわたしはどっかに行ってる鈴の隣の席の奴の机に座り、
「もう大丈夫や。安心してええで。鈴が可愛いから妬んだんやろうな。何かあったら言ってな?友達傷つける奴は許さへんし。」
その時鈴のキレイな目から涙が零れ落ちた。
「ありがとう…ほんま助かった…。」
そう言って。
どんだけ抱えてきたんだろうと思ったけどこれ以上聞くのはいけない気がしてやめておいた。
話したくないだろうし。
それからわたしは鈴と一緒に過ごした。
志穂は案の定友達が出来ず、休み時間になるとわたしのところに来て鈴と3人で過ごした。
放課後も3人で過ごしたり、猛が友達になった義孝や譲二と6人で遊ぶこともあった。
そして鈴はこのキレイな外見もあって背は低いけどすごくおもしろくお喋りな男、譲二と付き合うことになった。
そんなわたしは夏休みまで好きな人も出来ず、騒いで過ごした。
騒げるようになっただけよかったと思う。
でも心の中には季節が変わってもウィルがいた。
でもそれを決して表に出すことはなかった。