家に帰ると洋介くんが帰ってくるのを待った。

さっきの男達の怖がりようもおかしかったし。最近の洋介くんは何か変だって感じとってたから…。



夜の3時くらいに洋介くんは帰ってきた。

母親たちが帰ったちょっと後。


洋介くんの部屋にいたわたしに洋介くんは驚いた表情を見せた。


「お前、何やってんねん、人の部屋で。」


「洋介くん、何してたん??」


「は?何してたんって、学校行ってちょっと話しよってん。何やねん、いきなり。」


「なぁ、なんで今だにみんな洋介くんのこと怖がるん??まだなんかしよるん??」


「何言うとんねん、いきなり。お前が心配しとるようなことはしてへんよ。どうかしたんか??」


洋介くんはわたしの頭をポンポンと叩いて言った。

別にあいつらのことを言う気はなかったけどこんなことを言われたってことを言いたくて全部話した。

ただ、一応女だし、安奈と夏美のことは黙っておいた。

洋介くんは怒ると男も女も見境がないから。

洋介くんは最初は相槌を打ってくれてたけど後からは黙って聞いて、一通り話し終えたあとに口を開いた。


「そいつら、誰やねん。お前、名前知ってるん??」


「いや、知らんねん。ただ直哉って名前と孝志って名前は出てきたで。金髪のロンゲと鼻ピがおったわ。」


「わかった。俺にまかしとき。」


「違うねんて。わたしは復讐とか興味ないねん。未遂で終わったしもうかまへん。ただ、洋介くんが危ないことしとらんか気になっとってん。」


「里美が心配するようなことない言うたやろ?俺は大丈夫や。」


笑顔で言う洋介くんを信用するしかなかった。



数日後、洋介くんが家に帰ってきて無理矢理連れていかれた倉庫にあったものはボコボコになって丸坊主になった姿のあの男4人だった。

虫の息だった。

そして帰るというわたしに10分待てと言ってその20分後くらいに現れたのは安奈と夏美だった。
「なんやねん!!離して!!まじやめて!!」

騒ぎながら髪を引っ張られてくる2人をわたしはただ驚いて見た。

そして2人はわたしを見た後、ボコボコにされた4人を見て顔面蒼白といった感じだった。


「さぁ~て♪土屋安奈、澤田夏美やったな。お前らうちの里美にえらいことしてくれたらしいな。落とし前、つけてもらってええか??」


しゃがんだままニコやかに言う洋介くんは目が全く笑ってない。

周りではヤンキーじゃなく、もうヤクザに近い男らが罵声を浴びさせている。

”わかっとんのか、このブスが!!””女や思て軽くすむ思うなや?”といった感じで。

ハンパなくガラが悪い。

わたしまで身震いしちゃうくらい…。

もう安奈と夏美は泣き出していた。


「洋介くん、もうええよ。」


そう言うわたしの言葉は聞かず笑顔で2人のもとへ歩いて行った。


「自分ら、なんでこんなことしたん?俺、まだその理由知らんのや。言うてみ。」

そう言うが2人はガタガタ震えて言葉になってなかった。

たまたま近かった杏奈を洋介くんは思いっきり平手で殴った。

女に手あげる人やなかったはず。

相当キレとる証拠やった。

洋介くんはわたしにはほんま甘いし、ほんまわたしを大切にしてくれとるから…。

本物の妹やってくらい思ってくれとるから。


「里美~、こいつら言えへんならお前がその理由言ってみ。お前、こいつらが関わってたこと隠してたやろ。甘いで?」


わたしはこの日、初めて心底洋介くんが怖いと思った。

ここまでする必要、ないのにって。


「こいつらは…ただ仲悪かっただけや。最初はわたしがこいつら切ったのが始まりやからもうええ。」


小さい声で言うと洋介くんはわたしの目の前に来た。


「もうええ、やと?里美、お前犯されるとこやったんやで?お前がよくても俺は気すまんわ。こいつら、お前が気すんだなら俺らが好きにするから。ええな?」


「洋介くん…何するん?」


「色々あんねん。お前は気にせんとって大丈夫や。」


2人の顔をそのとき見るとガタガタ震え上がっていた。

それを捕まえている男が笑ってみている。
わたしは2人の目の前へ行き、思いっきり殴った。

こわそうな男が持っていたバットでも殴った。

2人の口から血が出て、立てなくなるほど殴った。


「もう…ええやろ…。」

ハァハァと息をたてながら洋介くんに言った。


「もう帰したげて。なぁ、あんたらこれに懲りてもうせんやろ?」


2人はコクンコクンとうなずいた。

顔はわかるよう強く殴ったが体は力弱めて殴ってるからダメージは少ないはず。

意識は普通にあった。


「わかってる思うけど警察とか親とか言うと…」


「言わんわ!!もう助けて。これで済むなら絶対誰も言わへん。」


夏美が慌てて言った。


わたしは洋介くんに”もう、ええやろ?”というと洋介くんは捕まえていた男に首で合図した。

男らは2人を蹴り飛ばした。


「夏美ちゃん、安奈ちゃん、次また里美に何かしたら…死ぬから♪覚えとき。」


最後の覚えとき。というところだけ洋介くんはドスを効かせた。

2人は急いで出て行った。


「里美~、手加減して殴りすぎや。あれでよかったんか??」


「いいんよ。あれで。あれで懲りたはずや。わたし…帰るな。」


「あぁ。送るわ。あと、この4人は俺らに任しとき。」


そう言ってまた原付に乗って洋介くんに家に送ってもらった。


洋介くんは心配いらん言ったけど…心配しかしてなかった。

兄のように接してくれて、わたしのことになると我を忘れて怒り、あそこまでしてくれる洋介くん。

優しいといえばそうかもしれない。

ただ、やりすぎだ。


そしてあの周りの人たちだって普通やない。


どんな人と付き合ってるんやろう…。

眠れない夜やった。
あの日の夜のことはウィルにも志穂にも猛にも言えなかった。

そんな流れで始業式はやってきた。

今日から高校2年生。


安奈と夏美、どうなってんやろ。

大丈夫なんかな?

そう思いながら登校した。


1年の時のクラスにまず入り、そこで新しいクラスを担任が発表するという形のうちの学校。

あの教室へ向かった。


HRが始まっても安奈と夏美の姿はなかった。

そして担任が”澤田と土田は辞めた。”と告げた。

理由を聞く人はいなかった。


志穂がわたしを見て

「よかったな、これで平和や。」

と言ったのでわたしも”そうやな。”と言った。

きっと苦笑いやったと思う。

わたしは感情を隠しきらんから。


100%わたしのせいで辞めたのに普通に知らんふりしてるわたしは最低だと思った。

けどあまりに最低なことをしすぎてるから誰にも言えなかった。
クラスは志穂と別れた。

隣のクラスだし、もしかしたら体育は一緒かもしれんけど他に友達が出来るとも思えなかったからお互いかなりショックだった。


だけど新しいクラスにはウィルがいた。

そして志穂のクラスには猛。


わたしたちはカップル同士で同じクラスになることが出来た。

多分学年1有名なカップルだったのがわたしたちだったから同じクラスになった人らは驚いていた。


「おぉ~里美やんけ!!同じクラスとは驚きやな。」


ウィルはわたしを見るとすぐ


「騒がしくなりそうや…困ったわーほんま。」


そう言った。

そして名簿がウとクが最初でウィルとは通路を挟んだ隣同士だった。

偶然ってこわすぎる。



横でずっと痴話ゲンカをするわたしたちにプッと笑ったのが志穂と同じポジションであるわたしの前にいた子だった。


「あんたら付き合ってるよな??おもしろいわーほんま。久保崎さん、噂ではとんでもない子や聞いてたけどそうでもなさそうやん。わたし、北村エリカ。友達このクラスおらんし仲良くしてな。」

北村エリカというその子はアイラインをバッチリ引いて、髪の毛をおだんごにしたちょっとふっくらした子だった。


「とんでもないてなんやねん…。」


「北村さん、騙されたらあかん。とんでもないで。」


そう言うウィルをギロリと睨むとウィルが「ほら~…」と言うからまた北村エリカが笑った。


「北村エリカな。よろしく。わたしは久保崎里美や。わたしもこのアホしか仲ええのおらんし、仲良くしてな。」

そう言って北村エリカに微笑みかけた。


「あかん!!北村さん、この笑顔に騙されたらあかんて!!」


ウィルが横からいちいち口出しするのがうざくて何度も


「ウィル、あんたいい加減しとかんとあとで血見るで??」

と脅して北村エリカを笑わせた。
「北村エリカは彼氏おるん??」


「フフ、エリカでええよ。彼氏おるで。しかも里美ちゃんの知り合いやねん。」


「はぁ?誰??」


「工藤慶太知っとるやろ?彼や。同じ中学言うとった。」


「ブッ…」


わたしはコーヒーを飲みながら聞いてたから慶太の名前を聞いてむせた。


「なんやねん…お前なんかその男とあるんちゃうやろな??」


横でずーっと聞いているウィルが口出ししてきた。


「ないわ!!つーか黙っとき!!それにしても慶太とは驚きやなー。元気しとるん?最近会うてへんし。」


「元気やで。慶太に里美ちゃんの話聞いたときは怖いわー、近づかんどこう思たけど同じクラスで真後ろにおる里美ちゃんとウィルソン君の会話聞いとったら怖い人には思えへんくなってな。」


「あんのクソ慶太め。北村エリカは何聞いてん?全部吐いて!!」


「あ、こいつすっげー仲良くなるまでフルネームで名前呼ぶ変な癖あるから許したってな♪」


そうフォロー入れるウィルに邪魔すんなとばかりに睨んだ。


「えーとな…野良猫殴って殺そうとしとった後輩を半殺しにしたとか…」


「ワーワーワーワー!!!!」


わたしは大声を出して北村エリカの口を止めた。

なんとなくウィルに聞かれたくなくて。


「お前がそんくらいしてること知っとるわ。今更ひいたりせんし、聞けや。」


ウィルは笑顔でそう言った。

わたしは唇を尖らせてまた北村エリカを見ると北村エリカは続けた。


「あとは~、何やったっけ。ケンカふっかけてきた奴らのリーダー格の足の骨折って再起不能にしたとか、慶太の腕にタトゥ入れたのとか、カラオケで機械ぶっ壊したとか…同じクラスの女2人ボコボコに殴って辞めさせたとか。」


前半は目かくして聞いてたけど最後のは…安奈と夏美のことやって気付いた。

同じクラスの女殴ったのはあいつらしかいないから。

慶太が知ってるんだということに驚いた。

まだ洋介くんらと付き合ってるって証拠だから。
「でもな、優しいとこもあるんやって言うとったで?その半殺しにあった猫治るまで面倒みたりしたんやろ??」


「へっ!?里美が!?そうなん??」


「わたし弱い者いじめんの嫌いやねん。」


そう言うとウィルが1番驚いた顔を見せた。

それを見ると何でこいつはわたしと付き合ってるんだろうと不思議になった。


「今度慶太に久々会うてみてよ。慶太も会いたがると思うし。…ウィルソンくんも来てな。」


最後はウィルに気をつかって北村エリカは言った。


「こいつはええ。ややこしいことなりそうやし。」


「なんでなん!?俺も昔の話聞きに行くで。」



こんな話で盛り上がり、その日バイトが休みだったウィルも一緒に慶太に会うことになった。
放課後、慶太と北村エリカが待ち合わせしてるって言ったのはちょっと離れた公園だった。

行ったことはなかったけど場所はウィルが知ってたから一緒に行った。


待ち合わせが6時半だったからあたりは真っ暗だった。

わたしには違和感があった。

慶太が…あの自己中男が女に合わせてこんな遠いところで待ち合わせをするとは思えなくて。

そして公園で待ち合わせなんてする奴じゃなくて…。

あいつならきっと大好きなカラオケを指定しそうやから。

そして大きな違和感、それは慶太のタイプは北村エリカと全く違う。

あいつ、1年…いやあんまり会わなくなって半年くらいか?

どんだけ変わったんやろ?って思っとった。


「慶太のやつ、なんでこんなとこで待ち合わせしたんやろ。」


先に着いたわたしたちは話していた。


「慶太ってまず誰やねん。なんで知らん男に会いに俺まで来てるんやろ…。」


「じゃ帰る?別にええで?」


「なんでそう素直じゃないねん。おってほしいくせに♪」


「なんでそうなんねん。」



こんな話をしてたときだった。

向こうから姿を現したのは北村エリカと安奈と夏美だった。

なんでこうなるのかさっぱりわからなかった。


ただ、安奈と夏美の顔にはまだガーゼか湿布かわからないが貼ってあった。



「里美、久しぶりやな。」

安奈が言う。

ウィルはさっぱりわからない顔をしていた。

これで全てウィルにバレてしまう…。

そう覚悟していた。



「北村エリカ、ほんまに慶太と付き合うてんの??」


「付き合ってへん。そんな男知らんわ。ただこの2人に協力してやっただけ。この2人とは長い付き合いやからな。」


やっぱり…って思った。

慶太って仲ええ友達がおることは確かに安奈と夏美なら最初仲良かったから知っとるしな。


「里美、この前はえらい優しくしてくれてありがとな。」


夏美のその言葉に驚いた時だった。


「なんて言うわけないやろ。でもまた里美になんかするとこわいから何も出来へんわ。」


「じゃあ何でわたし呼び出したん?用は何や。」


隣ではウィルが目を左右に振って意味がわからないという顔を続けていた。


「一応な。あんたにはかばってもらったし、わたしらもちょっとは感謝しとるんよ。その礼にいいこと教えてやるわ。あんた何も知らんのやろ??」


「なんやねん。さっさと言えや。イライラするわ。」


「この前の男、あんたのせいで消えたわ。消息不明やねん。」


「…は??」


「あんたがあの男にバラしたお陰であの4人、行方不明なっとんねん。ちっとは責任感じな。死んでるんか生きてるんかわからんけどな。警察は家出言うとるけどわたしたちはあんたのせいで死んだと思っとるから。」


「あんたが一緒に住んどる奴は人殺しや。他にも何件も同じことしとる。ただのチンピラやって話やけど最低やな。○×会にもよく出入りしとるらしいしな。」


そう言って3人は続けた。


「ウィルソンくん、この女から手引いたほうがええで。ほんま危ないわ。あ、別に僻みで言ってるんとちゃうからな。ほんまにこの女の兄貴の洋介って奴が危ないねん。」


わたしは何も言えなかった。

確かにあの日の洋介くんは異常なほど怖かった。

あんな姿、あんな行動は見たことなかった。

洋介くんは落ち着くとは逆に年々激しくなっていっていた。

しかも○×会って…ほんまもんのヤクザやん…。