その頃、わたしたちの間ではシンナーを盛んに吸っとった。
ビニールに入れ深く吸い込む。
気持ちよくなって、その場でいろんな人と性行為を交わしとった。
いつ、子どもが出来てもおかしくないのに不思議なことに生理だけは順調やった。
警察に通報されて逃げまくったこともあった。
でもその変な、忙しい生活のお陰で豊くんを忘れることが出来た。
次に付き合った人は梢ちゃんの他校の友達であった徹くんやった。
1つ上で卒業間近でもあるバレンタインの日にチョコを渡したことで逆に告白され付き合うことになった。
でもちょうどその頃、豊くんが親ではなく、先生に付き添われて出所してきた。
みんなから恐れられていた豊くん、徹くんは付き合うことはなかったことにしてほしいと言われた。
豊くんが真っ先にわたしに会いたいと言ってくれたから。
別にショックじゃなかったし、豊くんでも徹くんでもどっちでもいいやって思ったから豊くんとまた復活した。
ま、別れたわけじゃなかったけど。
豊くんと一緒にそれからずっといた。
豊くんと洋介くんと大悟くんは公立高校の夜間に進学が決まった。
そしてあとの人は頭が悪いと言われている高校ばっかりだけど私立の高校に進学して行った。
卒業してしまったみんながいない学校…淋しかった。
その頃は昔の面影はなく、他の生徒からは恐れられていた。
逆に先生からはかなり目つけられとった。監視されとった。
ケンカをふっかけるなんてことはしなかったけど、わたしを見ると逃げたりする人だっておった。
目が合うのをみんな恐れとるって感じに。
この頃は工藤慶太や沙織という女友達の3人で殆ど行動をしていた。
他にもヤンキーはいたけどわたしが心許せるのが沙織と慶太しかいなかった。
他の人はうわべだけって感じで1こ上の人たちに媚び媚びなのが嫌だったから。
壁を作って2人にしか話すことをしなかった。
沙織と慶太で校内でタバコを吸ったり、カツアゲしに行ったり毎日していた。
そんなときまた事件が起きた。
洋介くんや豊くん、大悟くんや博くんや隆二くんや隼人くん、そして他校のヤンキー13人くらいでいたときに絡んできたヤクザ1人を角材とか使ってボコボコにした。
わたしや梢ちゃんや千尋ちゃんというより女はそのときいなかったらけどその話を聞いたときは嫌な予感がした。
その予感は的中してヤクザの人は全員をつきとめた。
その人は顔は陥没してすごい重症。
みんなで1300万ほど払った。
ヤンキーの家は金持ちが多いこともあって親が多く出した人がいたらしいけど貧乏だった豊くんと洋介くんのためにわたしも少しだけど金がいるようになった。
万引きだけじゃとてもじゃなく追いつかない。
体だけは売りたくなかったけど買い手はたくさんいた。
悪くない外見。
体は細いけど中3にしてCカップの胸。
その頃から流行りだしたPHSを手に公衆電話からテレクラに電話してはそういう行為を繰り返した。
他にも色んな手をつかって相手を見つけていた。
5万以上以外は一切拒否していたわたしは学校も行かずヤリ続けた。
たまに騙されたけど気にせず続けた。
そんなわたしに豊くんは相当謝っとった。
情けない言うて。
結局1週間ちょっとで50万以上の大金を手にした。
人間、本気になればなんでも出来るんやって中3ながらに思った。
そして1ヶ月くらいすると200万以上の金が手元にあった。
それを全て豊くんと洋介くんへ渡した。
「返さんどいてね。」
そう言って。
返って来たらわたしが汚いことしたのがまた脳裏に蘇るから。
大好きな2人のためだからって言い聞かせて自分がした売春を正当化しとった。
でも衝撃の事実を知ったのはわたしが中学3年の冬やった。
私立の高校に入学したいって思って少しずつ勉強を始めていた時期だった。
洋介くんから話したいことがあると言われた。
「お前、豊と別れろや。」
「なんで??嫌なんやけど。」
「ええか、落ち着いて聞けよ。あんな、豊他に女いてその女妊娠させてしもたみたいや。俺もさっき聞いたことだし女いたことも知らんかったんや。」
裏切られた。
その言葉が頭の中いっぱいに広がった。
わたしは身を削って豊くんのために頑張っとったのにその時も他の女としてたんやろか…。
わたしは豊くんのためを思っとったのに。
豊くん、いつもはわたしとは避妊するやん。
豊くんはわたしのこと汚いって思っとったからやろか??
「俺、あいつのことボコボコにしたから病院今頃いるかもしれねーけどもう会うんやめ。会ったとこで意味ねーし。」
洋介くんは淡々と話した。
「うん。もう…会わん。」
言うのは簡単。
プライドが大事なんよ。
この頃は、強がることの。
それから豊くんから連絡は全くなかったしわたしからもせんやった。
自然消滅ってやつ?
涙は出なかった。
悲しかったけど泣かないことがプライドだったから。
それから風の噂で何年後かに子どもと歩いてたって耳にした。
その後洋介くんから、あの時の子は豊がシンナーでラリッて生でヤッて出来た子やったって聞いた。
どうだってよかった。
わたしは別れてから勉強をするようになって頭は悪いところだけどめでたく私立の高校に合格することが出来た。
梢ちゃんと千尋ちゃんの行っていたところではないけど。
そして思い出の詰まった、初めて楽しいと思えた学校を3月中旬、卒業した。
卒業アルバムはノリのように黒い髪、みんな笑顔の中で1人ムッとした顔をしたわたしの姿があった。
他の子は色んなところに写ってたりするけどわたしは個人写真しかアルバムには載っていなかった。
わたしが入学した高校は制服だけは可愛いけどサセ子が多いと言われているバカ高校だった。
ギャル男だったり、ギャルだったり、ヤンキーだったり…。
そんな人が入学式の日からやたら目についた。
1-2組になったわたし。
「なぁ、あんた久保崎里美やろ??」
机に座っていたとき横から話しかけてきたのは炭のように真っ黒にやいてすごいメイクをした細い女の子だった。
「なんで知っとるん??」
「あんた有名やん。わたし土田安奈。仲良くしよー。」
これがわたしと安奈の出会いだった。
この時は友達になれるって思っとった。
その時ガラッとドアがあいて金髪でストレートヘアの美人な子がわたしの目の前の席に座った。
あまりの美人にクラスの殆どが見とれていたと思う。
もちろんわたしも。
「なぁ、前に座った女知っとる?誰でも1000円でヤらせるで有名な木下志穂って言うんよ。同中やけん知ってるんやけど、ほんま関わらんほうがいいで。男取られるし。」
安奈は前に座っている木下志穂という美人に聞こえるよう大声で言った。
「取られるほうが悪いんよ。しょうがないやろ。」
豊くんのことを思い出しそう言った。
わたしはわたしが悪かったんだって思うようにしていたから自然とこの言葉が出てきた。
「なに、里美はそういうの経験アリなん?」
「うっさいわ。黙っとき。」
そう怒鳴ると安奈は席に戻っていった。
そしてギャル男と話していてあまりのでかい声に相当目立っていた。
はぁ、怒鳴ってしもた…。
こんな出始めでわたし友達できるかな…。
口悪すぎ。
不安になり始めていた。
そして中学校に戻りたいと思った。
沙織と慶太、そして1つ上のみんなが懐かしい…。
そしてその日は午前で学校は終わり、待ち合わせしてた沙織と街で買い物をした。
「里美んとこの制服可愛いわー。うちんとこスカート緑とかありえんって。」
「沙織んとこはありえんな、それは。」
そんな話をしていた。
この頃はギャルがまだ流行っていたけどわたしは焼いたりせず、白肌を貫き通していた。
焼く金もなかったし。
沙織は小麦程度まで焼くくらい。
沙織の家も金持ちだから出来ること。
うちはわたしが私立なんて行ったせいで家計は火の車だった。
「はぁ、わたしバイトせんといかんわ…。」
「はっ?里美バイトするん?」
「だってお小遣いとかないし。」
「やったら違う稼ぎ道あるやろ。カツアゲとかまたやる??」
「いやもうわたしそういうの卒業するわ。中学と同じ道は歩かへん。」
「じゃわたしも里美と一緒に卒業するわー。」
そんな感じでわたしは悪行を一切辞めることを宣言した。
もうシンナーもしてへん、万引きも高校入ってからは辞める、カツアゲもバイクもケンカも辞める!!
タバコと酒だけにすると2人して決めた。
沙織は高校行き始めて1週間で同じ学校でヤンキーの彼氏を作った。
彼氏が出来てからは一緒にいることが少なくなった。
それが当たり前なんやろうけどすごく寂しかった。
そして久々に会った時、シンナーも万引きも辞めれなかったと告白された。
わたしは別に気にはしないけどわたしだけ変わっていくのが淋しいと言われた。
それに対してわたしもじゃあ同じことするなんて言えへんし、答えに困ったのをよく覚えとる。
それから沙織とあまり会わないではなく、会わなくなった。
連絡もお互いしなかった。
お互い同じことを思ったんやろう。
考え方はもう違うって。
あんな仲良かったのにこんな簡単に切れるもんなんやなって思うと寂しくなった。
慶太とはたまに会ったりしとったけど…。
高校では安奈と安奈の同中だった澤田夏美と3人で過ごした。
わたしはやはり有名だったらしく、しょっちゅう声をかけられた。
○○中の久保崎さんなんだ♪とか。
正直めんどくさかった。
安奈と夏美はいい奴だけど何か合わないところがあった。
簡単に悪口を言うところとか。
理由はあるかもしれないけどずーっと悪口の話ばっかりするから疲れる。
今日もよく知りもしない子のことを
「男見すぎやって、あの女、ブスのくせに。」
「それわたしも思うでー。」
とかこんな感じで続けていた。
わたしはそういうんどうでもいい。
その時わたしは適当に聞きながら外を見つめていた。
外ではギャル男みたいな奴らがタバコを吸っていた。
それを見ると吸いたくなり、わたしは席を立って外へ向かった。
「どこ行くん??」
そう聞く2人に
「一服してくるわ。1人でええから。」
そう言って2人から逃げ出した。
バイトも決めなきゃいけない、友達も増やしたいというよりあの2人と離れたい、恋だってまたしたい。
そんなことを考えながら校舎の裏でカチッとタバコに火を付けた。
「なんや、久保崎里美やんけ。あんたもここでタバコ吸っとるん??」
そのときいきなり声が聞こえた。
隅に座ってわたしを見て話し掛けてきたのは前の席に座っている木下志穂やった。
手にはタバコ、そして服は半分くらい乱れとった。
どう見てもヤッた後。
「あんた…ここでヤッてたん??」
「そうやで。5000円くれる言うからやったんやけど下手でたまらんかったわ。」
木下志穂は笑いながらタバコの煙を吐いた。
どうやら安奈が言ってたことはあながち嘘ではないらしい。
かといって別に偏見はないけど。
「そうなんや、そら災難やったな。相手、同じクラスの奴?」
「いや、3年。」
「へー。」
「なぁ、久保崎里美、あんた今日暇やない??」
「なんやねん、そのフルネーム。今日は何もないけど何なん?」
「組んでるツレが急用出来たんよ。あんた一緒に売りせーへん??といってもあんたは見張りだけやけど。」
「見張りいるくらいならカラオケくらいなん?」
「正解。」
「別にええで。そのかわりその金で夕食奢ってや。」
「そんだけでええん?ま、こっちは嬉しいけどな。じゃ番号教えて。」
そう言ってPHSの番号を交換した。
これが木下志穂と初めてしゃべった時だった。
この時この場所におらんかったらきっと今現在のわたしはおらんかったと思う。
それほどこの出会いは大きいものやった。
放課後になって安奈と夏美が寄ってきた。
「里美、今日どっか行こう!!」
「ごめん、先約アリなんよ。またな。」
そう言った後
「木下志穂、行くで。」
前の席にいる木下志穂の背中にバッグをあてて声を掛けた。
「なんや久保崎里美やってわたしのことフルネームやん。」
そう言ってバッグを肩にかけた。
「なに、あんたら2人でどっか行くん??」
安奈が驚いて言ってきた。
低く、不機嫌そうな声。
「そやで。木下志穂にお付き合いしてくるわ。また明日なー。」
そう言って木下志穂と教室を出た。
後ろで話している安奈と夏美の
「なんやねん、あれ。」
という声を聞きながら。
ほっとけや、って感じや。
「なぁ、久保崎里美はほんまはあんなんと付き合うタイプやないやろ。」
ボソッと木下志穂が言った。
「安奈と夏美のこと?」
「そ。」
「ま、話は合わへんな。」
笑いながら言うと木下志穂も笑って言った。
「やろーな。久保崎里美は話してるの聞いたりしてるとサッパリ系やもん。」
「たぶんあの2人より木下志穂とのほうが気合いそうやわ。」
「それ、わたしもずっと思っとったんやで。久保崎里美とは気合いそうやって。」
ここから話が合う2人ってなったと思う。
こう考えるとダシになった安奈と夏美にはちょっとは感謝しなくてはいけないかなと思う。
この日は木下志穂が男のをしゃぶるだけの売りだった。
わたしは部屋の外でピッチをいじるフリをしてドアの前に立った。
外から見えないように。
これで木下志穂は2万もらっていた。
「あー臭くてたまらんやったわ。」
わたしたちはファーストフードを食べながらこの日夜まで語っていた。
お互いの今までを。
木下志穂は彼氏がしょうもないらしく、パチンコに行っては負けて金をせびってくるらしい。
売りしてることも彼氏は知ってる、何も言われないと淋しく言っていた。
でもそんな男が好きでしょうがないらしい。
わたしがどうこう言うような問題でもないし頑張れとだけ言った。
木下志穂はそのために売りをしてるんだとか。
「せめて相手選びたいわー。」
笑って木下志穂は言ってた。
それからは安奈と夏美じゃなく木下志穂と一緒に過ごした。
そしてGW明けの1年全員でのオリエンテーションが近くなってきた。
噂によるとヤリまくりのひどい2泊になるらしい。
10人の部屋というかテントで名簿から順番に部屋割り。
前の席である木下志穂とは同じ部屋になった。
安奈とは離れたけど夏美とはギリギリ一緒になった。