そして式の準備を進めていった。


式は4ヶ月後。

妊娠6ヶ月にはなっとるけどできるだろうってことで。


翔太の親のところにも挨拶に行った。

初めて会った。


その初めてが妊娠しましたから結婚しますだなんて…最低だ。


そう思ったけど翔太の親も翔太と同じように穏やかな人ですごく喜んでくれた。


お兄さん、弟さん2人も来てくれた。

志水家では結婚第1号らしい。

みんな祝福してくれた。



そして式の話とか、うちの話とかいろいろした。

母子家庭、しかも母親はスナック。

しょうもない家庭。

ええ母親とは言うことはできひん。


でも、たった1人の母親や。

包み隠さず全て話した。


会いたくないって思うやろうな。

これから親戚として付き合っていくのも嫌やろうな。


そんな思ってたのに翔太の両親は早くお会いしたいって言うてくれた。

ほんまありがたかった…。

そしてあわただしく過ぎていく日々。

検診、式の打ち合わせ、親との食事、色々なことが多すぎて毎日が大変だった。


仕事も辞め、式の段取りを一生懸命やっとった。

招待状の作成、1人1人に手紙を書く、曲決め、長さとかの打ち合わせ、衣装…。


くたくたやった。


でも、当日のことを考えれば楽しみ。

頑張れた。



チャペルで式を挙げることにした。



そして…妊娠17週目がきた。

月に1度の検診。



ここでわたしはどん底に落ちる。
医者の言うことが信じられなかった。



大きさから見て17週、いってなかった。



そう、赤ちゃんは生きてなかった。
1人で行った病院。

理解が出来なくて…。


17週ということもあり早く手術という言葉。

そのまま入院という言葉。


頭には入ってたけど身体が動かなかった。


「旦那さんに連絡しましょう。」


という看護士さん。


何も言葉を発せなかったわたしに代わって看護士さんが翔太に連絡してくれた。


翔太はすぐに駆けつけてくれた。


翔太を見た瞬間、涙が止まらず泣き崩れた。
その日、そのまま入院し、陣痛促進剤を使って夜中に陣痛が始まりました。


そして子宮が大きくなるのを待ちました。


そして………。
後悔なんて言葉、これほど使ったことはないと思う。


なぜもう少し気をつけて生活しなかったのか、全てわたしの生活が悪いせいだ。


もう少し気を使ってれば…死なずに済んだかもしれないのに。



涙が枯れることはなかった。

翔太もそばにおってくれた。

仕事には行かせたけど。



120g、18cm。


小さな赤ちゃん。

ほんまにごめんなさい。

どんだけ本当に謝っても許してくれないだろうな…。



そんなわたしを翔太は絶対責めんかった。

あんだけ楽しみにしとったのにね。


友達や家族も一緒におってくれた。
それからほんま闇やった。

供養が終わった。


翔太と赤ちゃんの名前、【希望(のぞみ)】にした。

また来てね、って希望をかけて。


式、キャンセル出来ひん。

やらなあかん。


なのに身体が動かん。



そんなわたしを叱咤したのは母親やった。


頬を2発殴られた。



「あんたがそんなグダグダ落ち込んでどうするん!!あんたに気つかっとる翔太くんのこと考えなあかんやろが!!赤ちゃんやって望んでへん!!前進むのいつやねん!!迷惑ばっかかけなさんな!!」


叔母は


「あんたこんなときに殴らんでも…」


って言うとった。


確かにその通りや。


翔太やって最近ほんま元気ない。

黙ってるわたしに母親は続けた。


「母親がこんな弱かったら産まれてきとっても幸せになれへんかったかもしれんな。もう少し強くなり!!」


そう言って背中を叩いた。


産まれてきても…幸せになれへんかった…!?


「何言うとるん!!産まれてきとったら絶対幸せにしとったわ!!」


わたしは母親に怒鳴った。


「じゃあ笑い!!あんたのそんなツラ見てるとな、亡くなった赤ちゃんが可哀想やわ!!わたしの孫や!!笑って見送らなどうするん!!このアホが!!」


母親も怒鳴る。


叔母はこの親子ゲンカを黙って見とった。


そしてわたしは言い返せへんかった。
供養はしたけどずっと笑って送ることは出来てへんかった。

お空に行った赤ちゃん。


わたしに笑っててほしいんかな??



「里美、きっと赤ちゃんは帰ってきてくれる。だからそれをまた待ちなはれ。」


叔母はわたしに言った。


その日、帰ってきた翔太はわたしをまた優しく抱きしめてくれた。


「俺、里美が無事でよかったわ…。一緒に頑張ろうな。希望の分も。」



きっと母親が翔太に連絡したんやろう。

叱咤しといたって。

こんなこと初めて翔太は言うたから。


もう、翔太に気つかわせへん。

強くなる。


希望にまた会うために。



わたしは翔太に笑いかけた。


「そやな。頑張ろう。翔太とやったらできる気がするわ。」


そんなわたしを翔太はきつく抱きしめた。




この日、わたしは初めて翔太の涙を見た。


「絶対離さへんから。次こそおなかの子まで守るから。ほんまゴメンな。」


って言いながら。



強くなった第一歩。


「翔太が謝る必要ないねん!!アホ!!」


泣き笑いやったけどこれで精一杯。


わたしたちは闇を克服することができた。