涙が出そうだった。

指輪が、それに詰まったものが捨てられたこともウィルがおらんくなるのも。

全てがショックだった。

またウィルが好きになっとる自分がすごく嫌だった。



「里美…俺な──」


「そうやな。いらんよな。何でわたしこんなことしとるんやろ♪」


ウィルの話を聞きたくなかった。

これ以上心に穴を開けたくなかったから。

だからウィルに喋る隙を与えないくらい話した。

これが決壊したダムってやつやろう。


「ウィルかてこんなんいつまでも持っとられたりしても嫌やしな♪てかウィルも持っとったとかビックリだったわー。懐かしいな、あん時くれたもんな~。」


それをウィルが黙って聞いていた。

そしてしばらくたったとき口を開いた。


「里美、俺な、実は」


「できたんやろ?彼女♪指輪さっき見てわかったわー。」


ウィルからは聞きたくなかった。

彼女できたって言葉を。


前にウィルの大学に行ったことがあった。

そこには綺麗で可愛い子がいっぱいおった。



そりゃウィルカッコイイし、モテるやろうし、出来るわな。
そのときだった。

ウィルがわたしのそばに来ていきなり足をかけてわたしを倒した。



またもやウィルによって海に沈められてしまった…。


「このヤロー…またもやりおったな。」


そんなわたしを見てウィルは笑った。


そして倒れてるわたしのお腹にポンッと小さな箱を置いた。



「それ、新しい指輪や。それ、はめとき。俺とお・そ・ろ♪」


そう言ってウィルは左手の指輪を左手をさして言った。


そして迫ってきた波がその指輪をさらっていった。


ウィルが慌ててその指輪を拾ったときわたしは逃さずウィルの手を引いて海に沈めた。


「やられっぱなし思うなよ♪このアホ。」


そう言ってウィルの背中にまたがった。

そして起き上がったウィルにまた倒される。


バチャン!とひっくり返ったわたしのお腹の上に次はウィルがまたがった。


「よ~仕返ししてくれたな♪そういう奴には…」



そう言ってウィルはわたしにキスをした。

海の中で。
最愛の人…。




そう呼ぶにふさわしい人だと思った。




彼と出会ってわたしは大きく変わった気がする。




自分を前よりもっと出せるようになった気がする。



そして暖かく包んでくれる。




「里美ちゃんが俺のそばに居てくれさえしたら何だって出来る。里美ちゃんを死ぬまで守っていくことだって。」



この言葉がわたしはすごく嬉しかったんだ。



初めてな気がした。



こんなに人に必要にされたのが。



ねぇ、翔太。
ウィルとそれから付き合い始めた。


わたしたちは元に戻った。


ウィルは優しくて、そしてわたしをいつだって優先してくれた。


「里美、夏はどっか旅行行こうな。俺、プラン練っとくし。」


そう言ってた。



わたしは相変わらずバイトの日々で、その旅行のお金を貯めようと節約生活だった。


その頃裕太も就職が決まって鳶を始めた。

洋介くんは相変わらずスカウトの日々。

下っ端だけど頑張ってた。



そして8月の暑い日、わたしたちは九州に車で旅行に行った。

初めて行く九州。

すごく暑く感じた。


日本1大きいと言われる観覧車に夜30分並んで乗ってキスしたりした。

宿泊はラブホテルだったけどそれでも楽しかった。


ずっと続く幸せだって思ってた。

ウィルだって。



そんなわたしたちに変化が現れたのは秋の終わり、11月だった。
21歳の秋。




わたしは出会った。





志水翔太と。
バイト先の飲み会に出た。

2ヶ月に1度くらいのペースであっていて、その日は10時から飲み会だった。


わたしの働いている雑貨屋には支店というか店舗が4つあって、その店舗からと本社の営業とか事務員さんとかが来る大きな飲み会にその日は珍しくなった。

どういう流れでそんななったのかわからないけど初めてだったので正直な話、そんな人が多いのめんどくさいなって思ってた。

身内だけが楽だし。


人数が40人弱くらい集まったから小さな居酒屋さんを貸し切って行われた。


わたしは同じ店舗で働いている中山さんと岡本さんの横に座っていた。

中山さんは茶髪の耳くらいの長さのちょっとヒゲが濃い27歳のイケメン。

爽やかだけどヒゲが濃いのが…って人。

岡本さんは正統派美人という感じだけど実は32歳とコッソリ教えてもらったことがあった。

実際は25歳くらいにしか見えないのに。


2人とはよく休憩が一緒になることもあったし、妹みたいだと言って可愛がられていた。

今日も他の人と絡む気がなく、3人で話していた。

すると岡本さんが本社の事務の人のところに挨拶に行こうと言うから、わたしと中山さんは渋々着いて行った。


事務の人なんてこれから先も関係ないと思うのに。と思いながら。


実際事務職の人とは淡々とした挨拶で終わった。

営業の人は結構年齢様々という感じで8人くらいいた。


「久保崎さん、もう席戻ろうか??」


中山さんの言葉にわたしは


「はい、そうですね。気まずいし、はよ戻って飲みましょ。」


そう言ったときだった。
「君らはどこの店舗??」


見た目28歳くらいかな?

そんな男の人に話しかけられた。

黒い髪の短髪。ちょっと小太り。


「あ、○○店です。」


わたしが咄嗟に答えた。


「○○店かー。ま、座り。1杯くらい付き合って♪」


そう言って新しいグラスに焼酎を注ぎ始めた。

わたしと中山さんは目を合わせてその場に座った。

この人は酔ってそうだったし、めんどくさいねって目で会話したように。



「で、名前何て言うん??」


「俺は中山です。そして彼女は久保崎さん。」


「俺は山崎浩太。27歳だけど何歳??」


「今年27歳っすか?そしたら俺、タメですわ。彼女は21歳。」


「21歳!!若いわー!!あ、中山くんとはタメやわな。よろしくしてな、久保崎さんも♪」


そう言って山崎さんはわたしの手を握って握手してきた。

それを苦笑いしながら握り返したときだった。


「山崎さん、それセクハラや言われたら終わりですよ~??」


わたしの後ろから声が聞こえた。


そこにはウルフカットをして目鼻立ちがくっきりした人が笑顔でポケットに片手をつっこんで立っていた。


「これ、セクハラやないよな??」


その山崎さんの問いにわたしは苦笑いではい。と答えると


「ほら、違う言うてんで?志水、お前も飲むぞ。」


そう言って山崎さんが彼を呼んだ。


これが初めて会った瞬間だった。
「山崎さん、もう飲みすぎやないですか?やめといたがえーですよ。」


「やかましいわ。あ、志水、この2人は中山くんと久保崎さんや。そしてこのうるさい奴が志水な。25歳。」


「どうも、営業の志水です。」


そう言って彼は名刺をわたしたちに渡してくれた。

バイトのわたしたちが名刺なんて持ってるはずもなく、それをただ受け取った。


”志水 翔太”


その名刺には会社名と会社住所、電話、そして携帯の番号が記されていた。


「俺も渡しとくな。」


そう言って山崎さんも同じものを渡してくれた。



そしてわたしたちは4人で15分程飲んだ。


15分程したらいろんな人に絡まれ始めたから色んな人と話すことになった。


そして2時間なんてあっという間で、休店日のない店だし、明日仕事の人が多いということでこの日はお開きになった。


わたしは次の日の土曜日、遅番出勤。

早くウィルに迎え来てもらおうと思ってたときだった。


「おったおった♪久保崎さん。」


そう言って後ろから話しかけてきたのは山崎さんだった。


「何ですか??」


「これから飲み、もう1軒付き合ってくれへん??」


「2人でですか??」


ぶっちゃけ、そうとう酔ってたっぽい山崎さんと行くのは嫌だった。

2人と言われたら彼氏おるから無理やって言おうと思った。


「2人でなんて行かせんですよ?久保崎さん、行けるん?行けるなら奢ったるしおいで。」


そう言ったのは志水さんだった。


わたしは断るのもどうかなと思ったし、次の日遅番だったということもあったから行くことにした。
着いたのは地下にある個室の居酒屋だった。

山崎さんは


「2人で行くつもりやったのに。」

ってブーブー文句言うとった。


機嫌がちょっと戻ってきた山崎さんがそこでまた焼酎のボトルを頼んだ。

話は山崎さんと志水さんの営業の話で、どんなことしてるとか色々聞いていたけど最初から相当酔ってた山崎さんは、わたしがちょっとトイレに行った時に寝てしまっていた。


「山崎さん、寝てしまったんですか??」


「酔ってたしな。ったくこのオッサンは…。まだ飲む?」


オッサンて…。2個違いなのに。

ツッコミは抑えておいた。


「いえ、もう山崎さん帰さなヤバイでしょ??」


「この人は…インターネットカフェに放り込むわ。ちょ、手伝ってな?」


そう言って志水さんが伝票を持って立ち上がり、山崎さんを起こしながら持ち上げた。


フラフラしながら歩く山崎さんを2人で運び、街中にあるネカフェに本当に放り込んだ。


「さて、俺らは帰るか。家どこ?送るで。ま、タクシーが。やけどな。」


「家は○×町です。」


「○×ね、ほな乗ろうか。」


「志水さんはどこなんですか??」


「そんなん初対面の人にはこわくて言えんわー!!」


そう言って止まってたタクシーに乗り込んだ。


「ちょ…それ普通逆でしょー!!」


そう言うわたしをタクシーの中から引っ張って乗せた。



「○×町までお願いします。」


タクシーの人にそう言った後、


「近くなったら説明するんやで?寝たらあかんからな!!」


「寝ません!!」


そう言いながら家に向かった。