「今日編入してきました、鈴木智也です。」

こいつ、昨日七瀬の隣に引っ越してきた奴だよな?

俺の所にも引っ越しの挨拶してきたし。

まぁ。学校の時の俺とプライベートの時の俺は違うみたいだから、全然気付いてないみたいだけどな。

ガララッ......

鈴木智也を廊下に残し、俺と櫻井先生が先に教室に入る。

あ......
七瀬、学校に来たんだな。最近、ずっと休んでいたから、心配だった。

七瀬は俺と目があうと、辛そうな顔をして、すぐに下を向いてしまった。

ごめんな......
そんな顔をさせるのも、何日か学校に来られなくなったのも、全て俺のせいだ......

櫻井先生が鈴木智也を呼び、教室に入ってくる。

その途端、女子達の甲高い声が教室中に響き渡る。

まぁ。無理もない。
顔も良いし、さっき話をしてみたが、性格も良さそうだからな。

「あっ!舞波!」

鈴木智也は七瀬を見つけて、叫んだ。

舞波?
昨日知り合ったばかりでもうそんなに仲が良いのか?

下を向いていた七瀬も鈴木智也を見て、驚いている。
女子の一人が二人の関係を聞いた。

アパートの隣人だろ。

だが、智也の口からでた言葉は、教室中を......俺を酷く驚かせた。

「俺の愛する人だよ。舞波を追って編入して来たんだ。」

どういう事だ?
七瀬とは昨日知り合ったばかりじゃないのか?
追ってきたって......

七瀬は冗談だよねと聞いていたが、鈴木智也は冗談なんかじゃなかった。

真剣な顔になり、ずっと好きだったと言った。

俯いた七瀬......

その七瀬の頭を撫でて、返事は急がないから、ゆっくり考えて欲しいと言った鈴木智也......

誰がみてもお似合いな二人だ。
教室の女子も誰一人文句を言っていない。

七瀬は、小さく頷いていた。

その瞬間、全身の血の気が一気に引いたような気がした。

一刻も早く、この場から逃げ出したくなった。

良かったじゃないか。
これで、七瀬は幸せになる。
おれは諦めがつく。

なのに何で......

こんなに胸が苦しいんだ......

手を離したのは、自分なのに......