保健室に着くと、中から声が聞こえてきた。
「ったく…だから男は…」
「す…すいません」
なんか…李衣っぽい。
喋り方とか…呆れてるし(汗)
「あたしに謝るくらいなら、はやく美代さんのとこ帰りなよ」
美代?…って…前話してた…浮気相手か?
「え…李「はーやーくー…」
「わっわかったよ」
ギシッとベットのスプリングの音がして…なんか、こっちにくるっぽい?
「李衣…」
「もう…なんなの?はやくいきなって」
「李衣…ごめん。あと、ありがとう。…俺は李衣を愛してたよ」
愛してた…って…
「あたしも、愛してた」
過去形だから…一応許すけど、李衣の口から『愛す』って言葉が出ると…ムカツく。
「いってくる」
やべ…くる!!
俺は、物影に隠れる。
「いってらっしゃい」
ガラガラッピシャッ
アイツか…
俺はソイツの後ろ姿を見ながら、チッと舌打ちした。
「ははっ…全く…なんだっていうの…?」
李衣…?
ふと気付いた、保健室の窓が開いているところから中を覗いた。
背中しか見えねぇ…
でも、震えてる…
「い…いかなきゃ…ダメなの…に…ヒクッ」
どこにだよ…?もしかして、愛してたって過去形が嘘で、気持ちを伝えに行くってことか…?
「ハヤテ…」
……これほど自分の名前を恨んだことはない。
李衣が、どっちのハヤテの名前を呼んだのかさえわからねぇなんて…
クソッ
俺は保健室に入り、李衣を抱きしめた。
「え…」
入ったのに気付いていなかった李衣は、驚いた声をあげた。
「李衣…」
「はっハヤテ…?」
ったく…どっちなんだよ…
わかんねぇのが、俺にはつれぇよ…
「なんで泣いてんだ?」
「そっれは…はっハヤテが…」
「俺が…?」
意味わかんねぇ…
俺だとしても、当て嵌まることがない。
しかも、涙が酷くなっていく。
「お…なの人と…」
「おな?なんのことだよ」
マジわかんねぇし。
「しらばっ…くれないで…よぉ」
「はぁ?」
ちょっと冷たい言い方すんのは、お前がわりぃからだかんな。
「お前、さっき田中といたろ?」
「え…」
「俺、聞いてたんだよね。お前らの会話…アイツ、李衣の元カレだよな」
「う…ん…」
「アイツとなんかあったのか?」
「ちが…うから…」
「じゃぁなんだよ」
「だから…ハヤテが…」
「俺?それともアイツ?」
「颯だってば!」
李衣は、俺がしつこいせいで、とうとうこっちを向いた。
「李衣…なんか不安なのか?」
「颯…?」
李衣は俺の顔を見て、明らかに動揺した。きっといつもみたいな、自信満々な顔じゃねぇんだろうな。
「話し合おう。2人で…ゆっくりな」
まず、話したい。
俺は、李衣と別れたくない…
だから、話そう。
今もこれからも、李衣を…
『愛してる』
…………………から。
あたしは、颯の家の下の公園まで引っ張られた。
勿論、終始無言。
はぁ…あたし、やっぱダメかな…
別れなきゃなんないのかな…?
じわりと濡れそうになる瞳に、"堪えろ"と言い聞かせた。
「座ろう」
そう言った颯に、私は小さく俯きながら頷いた。
そこは、この公園や、颯のマンション全てを見渡せるベンチ。
小さくて、2人掛けだけど…なんだかあったかい。
……そんな…場所。
「…」
「…」
無言のままだ…
何か…話さなきゃ…
「なぁ、李衣…どうしたんだよ…」
先に切り出したのは颯だった。
「俺、何かしたか?」
「颯…」
あたしが顔を颯に向けると、颯は自分のマンションを真っ直ぐ見ていた。
あたしに顔を向けるのが怖いのかな?
「あのね?…颯…」
切り出すのも、ちょっと無理…
なんか、緊張して…
声が思うようにだせないよ…
「うん…」
颯は、私の気持ちを察してか、ただ聞いているだけ。
目線はそのまま、自分のマンション。
「颯が…ね?おん…女の人といるとこ…見ちゃって…それで…」
「女?」
颯は、眉にシワを寄せて、こっちに顔を向けた。
明らかに、何かわかってないっぽい顔。
「んだ…それ…ってか、どんな容姿?」
どんな…容姿?
「えっと…黒髪のロング?だったような…」
「んで?」
「でるとこでてて…颯に笑いかけてた」
「それ…」
ドキッドキッ…
やばい…心拍数が…
「オーナーだ」
「……へ?」
オウナア?
「オウナアって何?」
「はぁ?!オーナーだよ。店長だ」
「て…店長?!」
「あぁ…つか…俺の浮気相手がオーナーかよ。ありえねぇし、趣味わりぃし」
………何…浮気…じゃないの?
じゃあ…なんで隠す必要が?
ってかそもそも、そこで何してたの…?
なんであたしの仮マネに、同意したのっ?!
もう、聞きたいことがありすぎてわけわかんない。
「ごめん、何か…隠しすぎてお前を不安にさせてたんだな…ったく、こんなことなら言っておきゃよかった…」
「……何を?」
うるうるしてきたあたしの瞳に、小さくキスを落とした颯。
「………///」
久しぶりすぎて、恥ずかしくなった。
「なんだよ…なんで赤いんだよ…つかそれ、いい加減治せよ…」
呆れたような、なんだか嬉しいような…そんな瞳であたしを見つめてくる。
「う…」
「つか、これ」
目の前に差し出されたのは、小さな箱。
「?」
意味わかんない。
何…これ?
いつまでもはてなを浮かべているあたしに、
「いいから開けてみろって」
ニッと笑う颯。
「……わかった」
あたしは、箱の紙を丁寧にはがし、中を開けた。
「………っ……!!」
「おいおい…」
だって…
ありえないし…
もぉわけわかんない。
頭がこんがらがってて…
「李衣…」
涙で揺らめく颯は、優しくあたしの名前を囁いた。
「ちょ…なんで…よぉ…グズッ」
「泣いてんなよ」
「だっでぇーっ!!」
「あははっ…ひっでぇ顔!!」
酷くていいもん。
もういいもん。
「それでも、颯は…」
「ん?」