結構バイトは順調。
古着屋って案外楽だし、楽しいな。
「いらっしゃいませ」
俺は、なるべく愛想よく挨拶をする。
「中谷くんっ?!もうちょっと笑顔振り撒きなさいよ。イケメンな顔を売りなさいよ!」
この横暴な態度の、黒髪ロングはここのオーナー。
名前は、マリアンヌ・アレクサンドリア。
すっげぇ名前だけど、一応日本語喋れるハーフ。
通称:マリアさま
「す…すいません…マリアさん…」
「もうっ!マリアさまでしょーがっ!!」
……………めんどくせ…
「マリアさま…笑顔、これでどうですか?」
にっこりと王子スマイルを、オーナーにぶつけた。
「いやんっ♪中谷くんったら///」
頬を染める姿がなんともいえねぇよ…(汗)
「ねぇえ?外の服、ちょっとたたんできてくれない?今すっごい荒れてるから」
「はーい」
俺は外に出て、洋服をたたみはじめた。
「中谷くーん?コレ、ここに置くから設置手伝って〜」
小走りの足音が聞こえたと思ったら、オーナー(マリアさま)が来た。
「あっはい」
俺は物を受け取り、外のどの位置に置くとか、指示を受けながら設置していった。
「流石ねぇ〜筋がいいわ」
にこりと笑顔を向けたオーナーに、
「ありがとうございます」
俺も笑顔を向けた。
……そんなとこを、李衣に見られてたなんて、俺はこれっぽっちも考えてなかった。
李衣にだんだんと、不安を抱かせていたなんて…
《ピンポーン》
その日夜、俺の家のチャイムが鳴った。
「はい、どちら様って…」
「こんにちわーっ」
「よーっす、は・や・て様♪」
「小宮間に、琥桃かよ」
「なんですかーその残念がりかたー!!」
「そうだぞー?颯、俺が折角来てやったのに」
どんだけ自分中心なんだよ。
まず最初言ってたように、今、夜だから。
夜中だから。
「ちょっとー…話しいいです?」
少し顔付きの変わった小宮間に、俺は無言で頷いた。
俺は2人をリビングに通した。
「なぁー…茶」
「はぁ?てめぇ…自分で注ぎに行けよ」
「ちぇ…あいあーい…」
琥桃は渋々、茶を注ぎにキッチンに立った。
「あの、颯様。颯様がりぃりぃに、どれくらい会ってないと思います?」
「?……まだ、1日か、2日くらいしか…」
「"1日か2日も"ですよ?今まで颯様がりぃりぃ1日か2日も会ってないことなんて、ありましたか?」
…そういや、出会ってからは毎日俺が、李衣の教室に迎えにいってた。
「ない…な」
「ですよねぇ…では、なんでりぃりぃが仮マネやることに、反対しなかったんですか?」
なんか事情聴取みたいになってきたな。
「は?前言わなかったか?李衣…明日誕生日だろ?だからだよ。いい機会かなって思った。サプライズにしたかったから…バイトもバレずに済むなぁ〜って」
「それとこれとはわけがちがいます。仮マネ…反対した方が良かったと思います…」
「は?」
「だな。俺も右に同じ〜」
話しを聞いていたのか、琥桃も口を挟んでくる。
「どういう意味だ」
「風瀬がきっと、想いを伝えます。…そして、元カレも赴任してきます」
「………なっ…!!」
なんだと?!
風瀬が?それに…元カレ…?疾風って奴のことか…?!
「風瀬の方ならわかるけど、元カレの赴任って何だよ!?」
「りぃりぃの元カレ、教師なんです。で、たまたまこの学校に来るらしいです…職員会議を偶然聞いちゃって…"優秀な大学出の、田中疾風先生が、明日からこの学校に赴任してきます"って。流石に…これは、本人ですよ」
「………」
こんな名前いくらでもいる。
だけど、こんなに胸騒ぎがするのは、きっと気のせいじゃねぇ。
絶対来るんだ。
『田中疾風』が…
昨日のこともあり、俺は重いあしどりで学校についた。
「はぁ…李衣」
空を無意識に仰ぐ。
「はーやてっオハー♪」
「琥桃…」
「昨日の…考えこんでんの?」
「あたりめぇーだろ。あんなの聞いてだまってられっか」
「だよねー♪俺、颯と李衣ちゃんが歩いてるとこ見んのが、好きなんだ〜」
「んだそれ…」
「なんか、颯は優しそうな雰囲気醸し出してるし、李衣ちゃんはすっごく幸せそうだもん」
「幸せ…そう?」
俺が無理矢理付き合わせて…それでも?
勿論、SEXは了解をとった。
だけどたまに、流れに負けたのかもしれないとか思ってた。
いっつも自分勝手で…
最初は遊び同然で…
「ほんとに…幸せそうだよ。いつも、そう思ってた」
琥桃のその一言に、何か勇気を貰えた。
「サンキュー琥桃。俺…ちゃんと李衣に話す。バイトも終わったし、プレゼントも渡したいし」
「颯からお礼言われるなんて初・め・て☆あ…プレゼントって何やんの?」
「教えるかばーか」
「恩人に失礼だぞ?!」
「自分で言うなよ…」
俺は、琥桃と話した後、すぐに李衣を捜しだした。
すると、
「颯様っ!やっと見つけた…りぃりぃが…りぃりぃが倒れたって…っ!!!」
小宮間が血相を変えて俺の元にやってきた。
倒れた?!
俺は直ぐさま保健室に向かった。
保健室に着くと、中から声が聞こえてきた。
「ったく…だから男は…」
「す…すいません」
なんか…李衣っぽい。
喋り方とか…呆れてるし(汗)
「あたしに謝るくらいなら、はやく美代さんのとこ帰りなよ」
美代?…って…前話してた…浮気相手か?
「え…李「はーやーくー…」
「わっわかったよ」
ギシッとベットのスプリングの音がして…なんか、こっちにくるっぽい?
「李衣…」
「もう…なんなの?はやくいきなって」
「李衣…ごめん。あと、ありがとう。…俺は李衣を愛してたよ」
愛してた…って…
「あたしも、愛してた」
過去形だから…一応許すけど、李衣の口から『愛す』って言葉が出ると…ムカツく。
「いってくる」
やべ…くる!!
俺は、物影に隠れる。
「いってらっしゃい」
ガラガラッピシャッ
アイツか…
俺はソイツの後ろ姿を見ながら、チッと舌打ちした。
「ははっ…全く…なんだっていうの…?」
李衣…?
ふと気付いた、保健室の窓が開いているところから中を覗いた。