「うっく…はっや…」
涙がとめどなく溢れでて…自分じゃ止められなくて…
「なっんで……」
ただただ、1人の空間に、訴えていた。
“何故?"
“どうして?"
と……
《ピーンポーン》
ドキッ…
誰?こんな朝はやくに。
颯……?
じゃないだろうな…
昨日…
思い出すだけで、前が歪んでいく。
やばいなぁ…もうお母さんも梓衣も出てるし。
あたしが出なくちゃなんないの…?
シカトで…《ピーンポーン》
《ピーンポピーンポーン》
2回連打しやがった。
ん…?
2回連打……?
何故か、懐かしい記憶が戻ってくる。
まさか。
いや、そんなわけない。
あたしは、目尻にたまった涙を拭い、玄関へと2階からおりた。
《ピーンポーン》
もう一度、チャイムが鳴った。
「はーい」
ガチャッとドアを開けると…
「やっほー♪」
玄関に、奈葉が立っていた。
だよね。奈葉か…アイツ…疾風かと思っちゃった。
昔からのあの人の癖だったから。
そんなわけ、ないのにね…
「ってか、りぃりぃ…目が…腫れてる…」
気付かれたか…やっぱし、わかるよね…
「えっ?昨日、すごくいい映画見ちゃって」
にっこりと無理に笑うあたしに、少し顔を歪めた奈葉。
きっと、気付てる。
「そーなの?りぃりぃがそんなに泣くなんて、すごい映画なんだーっ」
聞かないでくれて、ありがとね?
やっぱ、奈葉はいい友達だ。
「ささっ!今日は、この奈葉様直々にここに来たんだから、はやく用意するーっ!!」
「はぁい…」
まだ、重たい瞼を擦りながら、用意に取り掛かった。
……でも、颯を見れない。
合わせる顔なんて…ない。
あたしが、無理だもん。
普通には、できないよ。
考えてる間に、着替えや歯磨きをし終わった。
ご飯は、食欲ないし、いいや。
「りぃりぃ?まーだぁー?」
「今行くっ」
普通な奈葉に、今は救われるな。
「じゃ、いこ?」
「うんっ!!」
「りぃりぃ?」
歩きだした奈葉は、あたしの少し前で止まる。
「へ…?」
「奈葉、りぃりぃの味方だから。安心できる、心のホームだよ?なんでも相談して」
……奈葉。
「ありがと…」
「ん。じゃ、いくよ〜?」
振り返った奈葉の、笑顔にまた救われた気がした。
そして、教室に入ったあたし達。
颯とは…会わなかった。
今は、会いたくないから、よかったけど。
「はよ」
「へ?」
上を向くと、風瀬くんがたっていた。
「あっあぁ…おはよう。風瀬くん」
力無く笑うあたしに、少し眉を潜めた風瀬くん。
あぁなんか…あたしってわかりやすいんだなぁ。
心配なんか、かけたくないのに…
アレ見てたんだから、きっと理由がわかってる。
あの時、追い掛けてきてくれてたみたいだったし。
途中で足音が途絶えたんだけどね。
「昨日は…「…………マネ、さんきゅーな?」
あたしの声に声を被せ、風瀬くんは、あたしの席から離れていった。
着信のこと言おうとしたのに…
優しいな。
あたしの周りの人は…
こんな優しい人達に、甘えちゃダメだ。
ちゃんと聞かなきゃ。
颯に。
ガラガラガラ…
「おほよほぉ〜こさいますー」
いいタイミングで、じじぃ先生…通称タケちゃんがきた。
あれ?担任は??
「きょほぉから担任の、たなぁはせんしぇですー」
今日から担任?前の担任は?
たなぁは先生って?
「担任は〜?」
男子がタケちゃんにそう聞くと、
「はひぃ?」
タケちゃんは、聞こえないようで、耳を済ます。
「はぁー…タケちゃん…あの「失礼します。竹中先生。僕から説明を」
え……?
ガラガラと教室のドアを開け、顔を覗かせたその人は…
紛れも無く…
『疾風』だった。
ちょっとまって。
ありえないから。
あたしは、頭が混乱して、イマイチ今の状況を理解できずにいた。
疾風が…なんで?
美代さんは………?
もう、意味がわからず、ただただ放心していた。
だから、疾風の言葉も聞こえず…
HRは、終わった。
「麻咲しゃん?」
「え…」
HRは終わったのに、タケちゃんに呼ばれた。
「たなぁはせんしぇに、色々教えてあげてくらはいね?」
…なんで?
「従兄弟なんでしょう?」
従兄弟……?疾風、なんでそんな嘘を…
「ではね?」
タケちゃんはにこりと笑い、その場を去った。
今更、言うことなんてないはず。
じゃあ…どうして…
あたしの眉に、無意識にシワがよっていた。
「麻咲?どうしたんだ?」
風瀬くんが、あたしに近づいてきた。
「え?」
「ココ、シワよってる」
トントンッと自分の眉に人差し指をおく風瀬くん。
「あぁ…ちょっと考えごとしちゃってて…」
あたしは、今の状況を整理することで頭がいっぱいだった。
「あのさ」
不意に、風瀬くんがあたしに言葉を投げかける。
「今日も、一緒に帰ってくんね?」
え…?
「え…っと…「……今日靴箱で待ってるから…」
それだけ言った風瀬くんは、またあたしの前から去った。
「…………颯」
ポツリと呟いてしまうあたし。
真っ先に颯を思い出すなんて、やっぱりあたしは、颯が好きなんだな…
『颯に悪い』そう思っちゃう。
きっと風瀬くんのとこには行けない。
まだ、颯とあの女の人のこと聞いてないし、自分自身スッキリしてないけど…気持ちは、そう簡単には薄れないものだね?
「おい、麻咲」
懐かしい…この声。
「はい…」
振り返ると、懐かしい…顔。
髪は前より短くて、先生だからかキッチリしてる。
でも、なんで今頃?
なんで今更……?
「ちょっと話しがある。放課後職員室にきなさい」
「わかりました」
そっけない言葉を交わし、疾風はさった。
でも…それでもまだ胸が痛むのは、疾風のことを心が忘れていなかったから…
今も好きだから痛むんじゃない。
『なんできたの?』
そういう思いが交差して苦しくて仕方ないから…胸が痛むんだ。
「やだ…やだよ…」
あたしの否定は、すぐに教室の騒音に掻き消された。
心がぐちゃぐちゃで…
あたしはどうすればいいのか…
あたしはそのまま、フッと意識を手放した。
――――――…
「り……りぃ…李衣!」
誰…?
重たい瞼を開けると、あたしの愛しい………
人ではなかった。
「大丈夫か?麻咲」
疾風…
「すいません…田中先生」
「いや、いいんだ」
笑顔を向ける疾風に、“あたしを裏切ったくせに"…という憎悪が蘇る。
キッと睨むと、疾風は少し眉を下げ、困り顔になった。
「今更…今更なに?」
あたしは聞きたかったことを、率直に聞いた。