すっ…すっかり、暗くなっちゃった…
「俺、家まで送るよ」
「へ?」
「じゃぁ俺も行くっスよ?むゆー!!」
「おっま…はぁ…まぁいい…」
「へへっ!!李衣を危機から守るナイトっスから」
何やら意味不明な会話をしているお2人さん。
「俺も行くっスから、李衣?安心するっス」
「??あっありがとう。磨緒」
「チッ…」
なんか、小さい舌打ちのようなものが聞こえた気がした。
……………気のせいだよね?
「ささっ!!レッツゴーっス」
無駄にテンションが高い、磨緒。
しかも、真ん中あたしで、左に磨緒。右に風瀬くんという並びになってしまった。
挟まれるのって、意外と気まずいなぁ〜
トボトボ…
ほんっとに…気まずい。
「むゆー?喋んないんスか〜?」
「うぜぇ。黙れ、まー」
「全く…李衣が気まずそうにしてるっていうのに、配慮ってもんがないんスから…」
この2人、合ってないようで合ってる。
面白い…
「つーかほんとっ!!颯先輩ってば、こんな可愛い李衣置いて、何してんスかね〜?」
可愛いは余計だよ…磨緒。
「まぁ、あんな色男は最初から信じないほうがいいんだよ」
………ムカ。
「なんで、そんな言い方するの?風瀬くん」
「いや…別に」
颯のこと嫌いなのか知らないけど、流石に酷いよ。カッコイイから、信じがたいなんて…
「まーまー李衣?コイツはね?李衣のこと「うっせぇって!!黙れや」
「怖っ…」
風瀬くん…こんなに怒るんだ…
「い…いや。ごめん」
「いやいや。大丈夫だよ。風瀬くんの意外な一面が…」
「李衣ってば、正直も…の…ってあれ?は…」
「は?」
視線が、あたしの後ろに向いている磨緒。
「どうしたの…?磨緒」
あたしは、磨緒が見ているほうへ向く。
「まっ麻咲っ見るなっ」
風瀬くんの焦った声が聞こえたのにも関わらず、あたしは磨緒の視線を辿る。
……嘘っ…
なっなんで………?
あたしはただ、呆然と、人の行き交う道の隅を見ていた。
そこには、あたしの愛しい人がいて…
それも…綺麗な女の人と…一緒に。
(浮気)
1つの不安は、フタから溢れだし、心の中で黒く広がった。
嫌…嫌だよ…
あたしは、踵をかえし、走りだした。
もう、わけがわからなかった。
ただ、心を落ち着かせられる、何かに縋りたかった。
ボーーッと天井を見つめる。
あの、視線の先の2人が…気になる。
でも…聞けない。あたしには、無理だよ…
『勇気』がない。
“あの颯様と付き合ってるんだよ?"
心では、そう理解してる。
いや、理解してると思い込みたいだけだろう。
あたしは今、究極に病んでる。
学校…行かなきゃ。
昨日、眠れなかったな。
切っていた電源を入れ直し、携帯を見ると…
『着信:57件』
『メール:31件』
この2つが目に入った。
ほとんどが、風瀬くんと、磨緒で…
あたしは心底泣きたくなった。
そして、
着信履歴に、『颯』という名前を見つけたとき、涙が洪水みたいに溢れだした。
「うっく…はっや…」
涙がとめどなく溢れでて…自分じゃ止められなくて…
「なっんで……」
ただただ、1人の空間に、訴えていた。
“何故?"
“どうして?"
と……
《ピーンポーン》
ドキッ…
誰?こんな朝はやくに。
颯……?
じゃないだろうな…
昨日…
思い出すだけで、前が歪んでいく。
やばいなぁ…もうお母さんも梓衣も出てるし。
あたしが出なくちゃなんないの…?
シカトで…《ピーンポーン》
《ピーンポピーンポーン》
2回連打しやがった。
ん…?
2回連打……?
何故か、懐かしい記憶が戻ってくる。
まさか。
いや、そんなわけない。
あたしは、目尻にたまった涙を拭い、玄関へと2階からおりた。
《ピーンポーン》
もう一度、チャイムが鳴った。
「はーい」
ガチャッとドアを開けると…
「やっほー♪」
玄関に、奈葉が立っていた。
だよね。奈葉か…アイツ…疾風かと思っちゃった。
昔からのあの人の癖だったから。
そんなわけ、ないのにね…
「ってか、りぃりぃ…目が…腫れてる…」
気付かれたか…やっぱし、わかるよね…
「えっ?昨日、すごくいい映画見ちゃって」
にっこりと無理に笑うあたしに、少し顔を歪めた奈葉。
きっと、気付てる。
「そーなの?りぃりぃがそんなに泣くなんて、すごい映画なんだーっ」
聞かないでくれて、ありがとね?
やっぱ、奈葉はいい友達だ。
「ささっ!今日は、この奈葉様直々にここに来たんだから、はやく用意するーっ!!」
「はぁい…」
まだ、重たい瞼を擦りながら、用意に取り掛かった。
……でも、颯を見れない。
合わせる顔なんて…ない。
あたしが、無理だもん。
普通には、できないよ。
考えてる間に、着替えや歯磨きをし終わった。
ご飯は、食欲ないし、いいや。
「りぃりぃ?まーだぁー?」
「今行くっ」
普通な奈葉に、今は救われるな。
「じゃ、いこ?」
「うんっ!!」
「りぃりぃ?」
歩きだした奈葉は、あたしの少し前で止まる。
「へ…?」
「奈葉、りぃりぃの味方だから。安心できる、心のホームだよ?なんでも相談して」
……奈葉。
「ありがと…」
「ん。じゃ、いくよ〜?」
振り返った奈葉の、笑顔にまた救われた気がした。
そして、教室に入ったあたし達。
颯とは…会わなかった。
今は、会いたくないから、よかったけど。
「はよ」
「へ?」
上を向くと、風瀬くんがたっていた。
「あっあぁ…おはよう。風瀬くん」
力無く笑うあたしに、少し眉を潜めた風瀬くん。
あぁなんか…あたしってわかりやすいんだなぁ。
心配なんか、かけたくないのに…
アレ見てたんだから、きっと理由がわかってる。
あの時、追い掛けてきてくれてたみたいだったし。
途中で足音が途絶えたんだけどね。
「昨日は…「…………マネ、さんきゅーな?」
あたしの声に声を被せ、風瀬くんは、あたしの席から離れていった。
着信のこと言おうとしたのに…
優しいな。
あたしの周りの人は…
こんな優しい人達に、甘えちゃダメだ。
ちゃんと聞かなきゃ。
颯に。
ガラガラガラ…
「おほよほぉ〜こさいますー」
いいタイミングで、じじぃ先生…通称タケちゃんがきた。
あれ?担任は??
「きょほぉから担任の、たなぁはせんしぇですー」
今日から担任?前の担任は?
たなぁは先生って?
「担任は〜?」
男子がタケちゃんにそう聞くと、
「はひぃ?」
タケちゃんは、聞こえないようで、耳を済ます。
「はぁー…タケちゃん…あの「失礼します。竹中先生。僕から説明を」
え……?
ガラガラと教室のドアを開け、顔を覗かせたその人は…
紛れも無く…
『疾風』だった。