【完】甘辛ダーリン絶好調♪


「麻咲さんは、颯先輩どうしたんスか?」

水くみ場で、突然そんなことを言ってきた、磨緒。

「へっ?颯は…用事があるんだって」

つい、悲しみが顔にでちゃう。

ダメだなぁ〜…あたしって。

「なんかあったんスか?」

「いっいや…なんでも…「なくはないんスね」

………はい。当たってます。

やっぱり顔に出てたのわかったか〜…

「言ってみれば、案外楽になるかもしれねっスよ?」

「う…うん。実は…」

「おいっ宮越、はやくしろっ!!」

キャプテンから、およびがかかった。

残念…話せなかった。磨緒なら、話してもよさそうだったのに。(泣)

「仕方ないっス。また今度聞くっスから、あんまり悩まないほうがいいっスよ?」

「うん…ありがと。磨緒」

「はいっス。俺も李衣って呼ぶっスね〜」

「いいよっ!!」

「だいたい…颯先輩は、李衣にゾッコンっスから、大丈夫っスよ」

あたしが、颯の浮気疑惑に悩んでること、予想ついてるじゃん…





しかも…

「何がゾッコンなのよ?」

「見てればわかるっスよ」

………何それ〜…説得力なっ!!

「じゃ、はやくいかないと…」

「あぁ…はいはい」











ダンッシュッ

……やっぱり、すごい。

「ほぇ〜…」

「麻咲っ!!ボーーッとしてんなっ!水っ」

はっ!キャプテンからおよびがっ!!

「はっはい〜」

水を急いで持って行く。

辛いよー…あたしには、やっぱ向いてないや。

1週間でよかった…(泣)

「麻咲〜?大丈夫か?」

「ふっ風瀬くん…」

優しいなぁー風瀬くんは。




「うん!!大丈夫っ」

「マネが、1週間も休まなくていいようになったから、明日と明後日まででいいらしいぞ?」

「えっ?!わーいっ」

素直に喜んでしまったあたし。

風瀬くんに失礼だよっ!!バカ李衣!!

「ははっ…無理させてごめんな?」

しかも謝らせてしまった…

あたし最低。

「いやいや…こんなにマネが辛いとは思わなくて…」

「だろうな。慣れないことさせて…」

「いいえいいえっ!!大丈夫っ!最後の2日間、頑張ります」

「うん。よろしくな?」

風瀬くんは、爽やかに笑った。

可愛い〜なぁ〜笑い顔。




すっ…すっかり、暗くなっちゃった…

「俺、家まで送るよ」

「へ?」

「じゃぁ俺も行くっスよ?むゆー!!」

「おっま…はぁ…まぁいい…」

「へへっ!!李衣を危機から守るナイトっスから」

何やら意味不明な会話をしているお2人さん。

「俺も行くっスから、李衣?安心するっス」

「??あっありがとう。磨緒」

「チッ…」

なんか、小さい舌打ちのようなものが聞こえた気がした。

……………気のせいだよね?

「ささっ!!レッツゴーっス」

無駄にテンションが高い、磨緒。

しかも、真ん中あたしで、左に磨緒。右に風瀬くんという並びになってしまった。

挟まれるのって、意外と気まずいなぁ〜




トボトボ…
ほんっとに…気まずい。

「むゆー?喋んないんスか〜?」

「うぜぇ。黙れ、まー」

「全く…李衣が気まずそうにしてるっていうのに、配慮ってもんがないんスから…」

この2人、合ってないようで合ってる。

面白い…

「つーかほんとっ!!颯先輩ってば、こんな可愛い李衣置いて、何してんスかね〜?」

可愛いは余計だよ…磨緒。

「まぁ、あんな色男は最初から信じないほうがいいんだよ」

………ムカ。

「なんで、そんな言い方するの?風瀬くん」

「いや…別に」

颯のこと嫌いなのか知らないけど、流石に酷いよ。カッコイイから、信じがたいなんて…

「まーまー李衣?コイツはね?李衣のこと「うっせぇって!!黙れや」

「怖っ…」

風瀬くん…こんなに怒るんだ…




「い…いや。ごめん」

「いやいや。大丈夫だよ。風瀬くんの意外な一面が…」

「李衣ってば、正直も…の…ってあれ?は…」

「は?」

視線が、あたしの後ろに向いている磨緒。

「どうしたの…?磨緒」

あたしは、磨緒が見ているほうへ向く。

「まっ麻咲っ見るなっ」

風瀬くんの焦った声が聞こえたのにも関わらず、あたしは磨緒の視線を辿る。



……嘘っ…

なっなんで………?

あたしはただ、呆然と、人の行き交う道の隅を見ていた。

そこには、あたしの愛しい人がいて…

それも…綺麗な女の人と…一緒に。


(浮気)

1つの不安は、フタから溢れだし、心の中で黒く広がった。

嫌…嫌だよ…

あたしは、踵をかえし、走りだした。

もう、わけがわからなかった。

ただ、心を落ち着かせられる、何かに縋りたかった。





ボーーッと天井を見つめる。

あの、視線の先の2人が…気になる。

でも…聞けない。あたしには、無理だよ…

『勇気』がない。

“あの颯様と付き合ってるんだよ?"

心では、そう理解してる。
いや、理解してると思い込みたいだけだろう。

あたしは今、究極に病んでる。

学校…行かなきゃ。

昨日、眠れなかったな。

切っていた電源を入れ直し、携帯を見ると…

『着信:57件』
『メール:31件』

この2つが目に入った。

ほとんどが、風瀬くんと、磨緒で…

あたしは心底泣きたくなった。

そして、

着信履歴に、『颯』という名前を見つけたとき、涙が洪水みたいに溢れだした。





「うっく…はっや…」

涙がとめどなく溢れでて…自分じゃ止められなくて…

「なっんで……」

ただただ、1人の空間に、訴えていた。

“何故?"
“どうして?"

と……



《ピーンポーン》

ドキッ…

誰?こんな朝はやくに。
颯……?
じゃないだろうな…
昨日…

思い出すだけで、前が歪んでいく。

やばいなぁ…もうお母さんも梓衣も出てるし。

あたしが出なくちゃなんないの…?

シカトで…《ピーンポーン》

《ピーンポピーンポーン》

2回連打しやがった。

ん…?
2回連打……?

何故か、懐かしい記憶が戻ってくる。

まさか。
いや、そんなわけない。

あたしは、目尻にたまった涙を拭い、玄関へと2階からおりた。




《ピーンポーン》

もう一度、チャイムが鳴った。

「はーい」

ガチャッとドアを開けると…

「やっほー♪」

玄関に、奈葉が立っていた。

だよね。奈葉か…アイツ…疾風かと思っちゃった。
昔からのあの人の癖だったから。
そんなわけ、ないのにね…

「ってか、りぃりぃ…目が…腫れてる…」

気付かれたか…やっぱし、わかるよね…

「えっ?昨日、すごくいい映画見ちゃって」

にっこりと無理に笑うあたしに、少し顔を歪めた奈葉。

きっと、気付てる。

「そーなの?りぃりぃがそんなに泣くなんて、すごい映画なんだーっ」

聞かないでくれて、ありがとね?

やっぱ、奈葉はいい友達だ。