あわただしく過ぎていく事で、人は考える事すら忘れてしまうのだろうか。
あんなに毎日泣いて過ごした日々も、今はまるで違う。
仕事を覚える事に必死になっていたし、怖い上司に怒られて
イライラしながら飲むお酒や、新しく出来た会社の仲間とのランチ。
残業代もたいしてもらえないんだとブーブー文句を言いながら
みんなでワイワイと仕事をする夜中。
誰が買い出しにいくか、じゃんけんで決めたり・・・

まるで高校生の頃のようだった。
あたしは職場には恵まれている。
いつも、周りに助けられながら、あたしは少しずつだけど成長している気がした。
高校からバイトしてきたあの店の店長も、本当に良くしてくれるし
今でも前を通るたびに、店の外まで出てきてくれて
新しいバイトの子の話なんかをしてくれる。

智が居なくなってから、もう半年が経つ。
電話はまだ1度もない。
手紙も、届かない。

それでも、あたしは待ち続けている。
智の事を考える時間は極端に減ったけど、忘れた日は1度もなかった。

『幸ちゃんって彼氏いるの??』
会社の先輩がそう尋ねる。
「いちおう、いますよ」
なんとなく曖昧な答えになってしまう。
『ここの会社じゃデートなんかする時間全然ないでしょ~・・・』
実際、独身の方が多かった。
「忙しい方がいいんです、あたしの彼も忙しい人なので」
『そうなんだぁ・・・寂しいねぇ。』

寂しい。
その言葉が出た瞬間に、あたしは無性に寂しい人間なんだと思ってしまった。
ずっと大丈夫だと思ってたけど
本当はすごく寂しかった。
でも、どうする事も出来ないと心を押しつぶしていたんだ。
目頭が熱くなって、涙がこぼれそうになった。

「ちょっと・・・トイレに行ってきますね」

そう言いのこして走り出した。