バイト中も、休憩中も頭の中は今日の「大事な話」のことでいっぱいだった。
その大事な話を聞いてしまったら・・・あたしはどうなるんだろう。
考えても考えても、答えのない想像に嫌気がさした。

そして、バイトも終わり智の携帯に電話をしようとしたその瞬間
バイト先の前に智は立っていたのだ。

『おつかれ~』
そう言って缶ジュースを差し出し、
掴もうとしたあたしの手をとり、自分の方に引き寄せ
あたしの耳元でささやいた。

『幸、おれ海外留学することになった』

やっぱり・・・嫌な予感は的中した。

智が遠くに行っちゃう・・・。

下唇をかんで、泣かないように精一杯我慢をして、
静かに息を整えて、必死に口から出した言葉は

「わかった」だった。

本当はわかってなんかなかった。
海外なんて遠すぎるよ。
行かないでって言いたい・・・でも。

あたしが引き止めることなんて出来ない。
智の夢だから。
諦めて欲しくない。本当はそう思ってるのに・・・

行かないでって言いたいよ。
そばに居てって言いたいよ。
カメラより、あたしが大事だって言ったあの言葉は・・・
嘘だったの・・・?って
叫んでしまいたかった。
泣いて怒りたかった。

でも・・・あたしには言えない。

必死に涙をこらえて、智の胸から離れた。

「智・・・。絶対、夢叶えてね・・・」

もう、、、、これ以上は何も話せない。
何も言えない。
話したら涙が溢れてしまう。

ゆっくり智から離れて、
智に背を向けた瞬間 こらえきれなくなった涙が溢れていた。

そこからは記憶が定かではないけど
逃げるように走っていってしまったような気がする。