あの日


大阪に行ってしまってから


克己はいつもケイタイの中にいた。


サブディスプレイにうつる


上野克己の名前と


受話器から聞こえてくる


やわらかい声。


メールのチカチカとした文字が


私にとっての彼のリアリティーだった。


すぐそばで


エレベーターの鏡に映った


自分をみている克己を


心の中に焼き付けた。


ビルの地下街では


どのお店も休憩中だった。


やっと開いているお店を見つけた。


「イタリアンでいい?」


「うん。」


「じゃあ ここにしよう。


つうか


この店しかやってない。」



薄暗い店内の一番奥の席に


案内された。