「お、オーナーあの」

「なんだよ」

何て言っていいか分からない。相変わらず鰐渕さんは不機嫌で、だけど、モヤモヤする感情が言葉を押し上げては、奈津美さんの瞳が突き落とす。

黙り込んだ私を横目に鰐渕さんがガシガシと頭を掻いた。

「…あのやろ。煽りやがって」

「え?」

「え、じゃねーよ」

なんなんですか、と戸惑う。見慣れた背中が今向き合って目の前にある事に今更動揺して、

「オーナー、私、あなたが好きなんですけど」

どうしたらいいんですか、どうすればいいんですか、もう意味わからないんですよ、あなた全然わかりません。今、何故このタイミングで私も言ったのか、だけど、瑛ちゃんがお膳立てしてくれた今じゃなきゃ言えない気がした。

鰐渕さんは少し目を開いて、それから逸らす。

「若咲、おまえな、本当阿呆」

「んなっ」

人の一世一代の告白を。

「分かりやすい、訳ないだろ。おまえポーカーフェイス上手いよ。向き合おーにもクソ忙しいし、おまえもなんもアクションおこさねーから急に店辞めるんじゃないかと思った」

「そんな、こと、しません」

「俺も好きだって言わなかったか?瑛太に番号教えてる場合じゃねーだろ。いや、俺何言ってんだ」


鰐渕さんの真っ黒な瞳が私を映して、

「酔ってますか」

「酔ってねー」

嘘、沢山飲んでたじゃない。

「もう、分かりにくいです、どうしたらいいんです、か」

声を詰まらせた私に、

「今度、休みにデートでもするか」

だったら分かるだろ、と彼は屈託なく笑った。