「やらねーよ。若咲、早く帰れ。お疲れ」

こちらをちらりと見もせず、鰐渕さんは手をヒラヒラさせた。
どういう意味だ、と混乱する前に、瑛ちゃんが、ふは、と笑う。

「危ないから駐車場まで送っていきなよ、わにちゃん」

瑛ちゃんは鰐渕さんのグラスを取り上げるとそれを飲み干して、鰐渕さんの肩を指先で弾く。耳元で瑛ちゃんは鰐渕さんに何か言ったようで鰐渕さんは分かりやすく不機嫌になる。それから、私にウインクした。


「良いオーナーだね?椎那ちゃん」

大丈夫だ、という私に鰐渕さんは「…行くぞ」とさっさと出て行く。

「ちょ、まっ」

慌ててその背中を追う私が少し振り返った時、隣の男の子と話していた奈津美さんの厳しい視線がぶつかった。