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鰐渕さんの発言から一週間結局、私はJOUJOUにいる。
毎日変わらず忙しい。
鰐渕さんは変わりなく怒鳴っている。何にも変わらない。夢だったんじゃないかと思う度、睡眠時間が削られて、結局奈津美さんの発言はなんだったのかと、いや大体鰐渕さんの発言がなんだったと延々とループしている。


「しいちゃん、肌荒れ油断大敵だよ」

ショーケース越しの瑛ちゃん。

「忙しいんだよ」

私はすぐに顔を反らすと瑛ちゃんから視線を外した。

「大丈夫、お疲れでもしいちゃんは可愛いよ。なんか隙だらけだよね」

瑛ちゃんは愉しそうにいつもの軽口。

「なにが?」

「なんだろね?」

余裕たっぷりに瑛ちゃんはフフと笑うとゆっくり近づく。
社用で来る度に私をカウンターに呼び出す瑛ちゃんに、スタッフも慣れてしまった今日この頃。瑛ちゃんに対して敬語も使ったり使わなかったりと、なんだかんだ私も緩い空気感に慣れてきていた。

「ぶ。しいちゃん、その顔は変」


瑛ちゃんは眉間に皺を寄せて私の真似をする。

「言われなくても分かってますよっ」


私は不機嫌に返した。瑛ちゃんの持つ空気は何だか居心地が良くて、肩肘を張らなくて良い。不思議な人だ。

「しいちゃん、俺仕事辞めるから」

「えっ?」

「あ、今日はチーズケーキね」

あまりにも変わらない口調に聞き間違いなんじゃないかと思った。

「辞める、って?」


瑛ちゃんはイタズラっ子みたいに微笑むと、


「寂しくなるでしょ?」


と首を傾げた。