最低だ、この人最低だ。彼女がいるくせに平気でそんなこと言う。
「なんで、もう、ほんとやめてください。キープとか受け入れられる程溺れてません」
嘘だ。グラグラ揺れてる。だけど理性を総動員して言ったのに、
「キープ?なんだよ、それ」
「とぼけてるんですか!可愛くないですよ!」
もうやだ、この人。まだ力強く抱き締められたままの胸の中でジタバタともがく。
「動くなよ。キープとかしてるつもりじゃねーし。ちゃんと好きだよ、おまえが」
さらりと言ったそれは聞き逃してしまいそうで、
「ええ⁈」
彼女いるでしょ、しかも七年でしょあんたと怒鳴りたい。
「奈津美さんと付き合ってるんでしょ!何言ってんですか!堂々としないでくださいよ!なんでえらそうなんですか!」
いや、怒鳴った。
「奈津美…?ああ、それでか」
納得したように頷く鰐渕さん。
「今は付き合ってない。安心しろ」
「できるかい!」
今は、ってなんだ、今はって!
「もう煩いなおまえ」
面倒くさそうに眉を曲げる鰐渕さん。展開が読めなくて涙はとうに引っ込んだ。
「おまえは店と俺が好き。そして俺はおまえを解雇するつもりはない。彼女もいない。これで解決だ」
不適に笑う鰐渕さんに私は一人ポカンとしていた。